旅立ち3

 

 

部屋の荷物整理をせっせとする龍之介と、従姉の薫子・・・・・・

「朝から来てくれてありがと。助かるよ。」

ダンボールから本を取り出して、本棚に収納している。

「叔父さんからお願いされちゃったからね〜昨日だって、新宿駅まで迎えに出なかったら、

龍ちゃんここまでたどり着けなかったじゃない・・・・・」

「恩にきます。」

「でもよく入れたよねえ・・・・F大は狭き門なのに・・・頭はいいのね。頼りないけど」

「・・・・それは余計です・・・・」

そのF大の英文科の教授をしているのが、この牧田薫子。

哲三は彼女にある程度、龍之介の事を託していたのだ。

「お昼はパスタね。藤島さん来るんだって?」

(だから朝早くから、おめかししてきてたのか・・・・・)

龍之介は頷く。薫子は伊吹に片思いしている。

「時々しか会えなかった藤島さんと、ここで毎日のように会えるなんて夢みたい!」

(え???毎日通うんですか・・・・)

「あの・・・伊吹は掃除洗濯、料理、何でも出来ますから・・・」

「ほんと???凄い!!!理想の夫だわ!!」

(誰が・・・・夫ですか?)

なんだか自分と伊吹の間に割り込んできた薫子に、少しむかつく龍之介・・・・・・

 

 

昼前にはなんとなく片付いた。

「遅いなあ・・・藤島さん・・・・」

パスタをゆでつつ、薫子はため息をつく・・・・・・

たらこスパが出来上がろうとした時、チャイムが鳴った。

「藤島さんだ〜」

と、ドアを開けた薫子は悲鳴を上げた。そこには伯母の和子が立っていた・・・・

「薫子!お見合いすっぽかして何してるの!」

「哲三叔父様から頼まれたのよ〜龍ちゃんのサポート・・・」

「それは昨日までの話。若頭が来るって言うじゃないの!」

和子は、娘がやくざの若頭に惚れていることが気に入らない。結婚などとんでもないと思っている・・・・

彼女自身、やくざの家に生まれ、世間体やら周囲の目やら気にして生きたきたのだ・・・・

「来なさい!」

薫子の腕を引っ張って、和子は玄関口に立った。

「龍ちゃん、困った事があったら、何でも言ってね。伯母さんが来てあげるから。」

やくざは嫌いでも、甥の龍之介は可愛くて仕方が無い和子だった。

「伯母さん、ありがとうございます。薫子さんもありがとう・・・・」

慌しく去ってゆく2人を見送り、静かになった部屋を見回す

(なんか心細いなあ・・・伊吹、早く来ないかなあ・・・・)

皿にスパゲティーを盛り、ダイニングのテーブルにならべる・・・・

(先に食べようかなあ・・・・)

フォークを持ったとき・・・・・・チャイムが鳴った。

「伯母さん・・・・忘れ物?」

とドアを開けると・・・・・・・・・・

「伊吹!!!!」

黒いスーツの、いつもの見慣れた藤島伊吹がいた

「ぼん。遅うなりまして・・・・」

「ううん・・・さ、入って・・・」

龍之介は伊吹のスーツケースを受け取り、部屋に招き入れる。

「・・・・重い・・・なにこれ・・・」

「ああ・・・おはじきが2,3個入ってます・・・・」

「何で?」

「こっちにも、やくざの勢力争いはありますさかい、ぼんが狙われへんとも限りません・・・」

「機関銃とかじゃあないよねえ・・・・」

「あたり。さすがは鬼頭の次期組長。」

つくづく普通の生活から遠いと思う龍之介

「まあ、いいか・・・それより、お昼できてるよ」

とダイニングに誘う。

「ぼんが作りはったんですか・・・・」

「ううん。薫子さん。ついさっき伯母さんに連れられて帰ったけど・・・」

「来てはったんですか・・・・」

と椅子に座る

「うん。薫子さん、伊吹のこと好きなんだって知ってた?」

龍之介も椅子に座る・・・・・・

「ええ・・・・でも、関係ないですから。」

「そうなの?」

「はい。」

2人はフォークを取る

「私には、ぼんしかいてませんから・・・」

「ホント?これからもず〜〜っと一緒だよ?」

「はい。」

 

こうして、2人の同棲・・・・いや・・・同居生活は始まった・・・・・

 

 

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