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「和真さん」

ルナ・モルフォから戻り、シャワーして寝室に入ってきた和真を、ベッドで待っていた史朗が見上げる。

「松田社長は本当にいい男ですね。和真さんが知ったら、本当に惚れますよ」

え?事情が飲み込めない和真は首をかしげたまま、史朗の隣に腰掛ける。

「何?兄さんの事、甲斐さんから何か聞いたのか?」

そう迫りつつ、史朗を下敷きに倒れこむ。

「言いませんけどね」

死んでも言うものかと思う。和真と忠が血の繋がらない他人だという事、忠が全てを犠牲にしても、和真の

ために尽くしてきた事、何より、忠が一番愛している人物が和真だという事。

「言えよ〜」

「言わない約束しましたから、墓場まで持っていきます。だから、和真さんはもう、兄離れしてください」

先ほど、忠にもそう言われた事を和真は思い出す。

ー もう俺に頼らずに武田と共に歩いてゆけ、兄離れしないと武田に嫌われるぞ?ー

「兄さんに俺を盗られるかもって思ってる?兄弟はいくら好きでも恋人には、なれないんだぞ?」

だから・・・史朗は苦笑する、知らぬが花、もし和真が事実を知ったら、どうなるのだろう、史朗は和真の一番で

あり続ける自信がない。

和真は史朗のパジャマのボタンを外し、所有印を確認する。

「これ、見つからなかったか?」

「見つかるはず無いでしょう、甲斐さんとは何もしてませんから」

そう言ったあと、ふと、思い出す、ルナ・モルフォでのお別れのキスと抱擁を・・・

「本当に?ハグぐらいして別れただろ?」

ははは・・・もう笑って誤魔化すしかない史朗は、お詫びに和真に濃厚なキスを捧げる。

「ごまかしたな?」

「終わった恋路を詮索するのは野暮というものです。したとしても、ここまで深いキスは貴方だけだと信じてください」

確かに、甲斐と会った後の史朗は憑き物が落ちたように変わった。少しの迷いもないまっすぐな意志、過去を振り切った

潔さ・・・幕引きは甲斐がした。和真も心のどこかでそれを知っている、以前のような焦りや嫉妬などの感情を感じないのだ。

「それより、和真さんこそ、松田社長と何を話していたんですか?」

パジャマを脱がされながら、史朗はそう訊く。自分の中の甲斐が消え去った分、和真の中の忠が気になりだした。

恋をするとどうしても、我侭になってしまう。自分には和真しかいないのに、和真の中に、まだ忠がいるという事が

許せない。大人げないと言われようが、それが本音なのだ。

「松田社長にはもう、最愛の恋人がいるので、何度も言いますが、いい加減に兄離れしてくださいね」

え?と史朗の首筋に舌を這わせていた和真が顔を上げる。

「兄さんの最愛ってもしかして、甲斐さんか?だから、甲斐さんはお前とけじめつけたとか?」

「まあ、私たちは振られ者同士なんですよ、というか、振ったのかな?」

おい・・・和真は何か言いたそうに顔をしかめた。

「俺は別に兄さんとは振る振られたの関係じゃないからな。兄さんと添い寝してても、こんなにはならなかったし」

和真は史朗の手をとり、自らの下腹部にあてがう。そこは反応し始めていて、勃ち上がっている。

(貴方はそうでも、松田社長は・・・だから辛くて支倉の家を出たんじゃないですか・・・)

史朗は、そっと忠の報われない想いに同情する。気づかないという事は罪な事である。

「お前のせいだから、これは責任取れよ」

「私にだけ・・・なんですね」

ゴロリと和真を転がして史朗はのしかかり、和真の勃ち上がったモノを取り出し、舌を這わせた。

「おい!やめろ・・・」

必死に引き離す和真を前に、史朗は困った顔をする。

「やはり、下手くそなんですか私って・・・甲斐さんも嫌がるし、しても中に出そうとしないで途中で引き離すんですよ。

そりゃ、和真さんみたいになんでも器用じゃないけど・・・」

デキる男が、たかだか口淫が下手だとヘコむ姿はシュールではあるが、和真にとっては萌え要素の一つであった。

「それって嫌々じゃなく、やりたいのにさせてもらえないってやつだよな」

無理強いは萎える和真としては、史朗のそんなところが可愛くて愛おしい。愛されている事を実感できて幸せになれる。

嬉しそうにニヤつく和真が意味不明で、史朗は眉間に皺を寄せる。

「何をニヤついてるんですか?馬鹿にしてます?」

いやいや・・・これをどう説明していいやら悩むが、誤解は解いたほうがいいらしい。

「今、されたらすぐイッてしまうからダメなんだよ」

「一度出しても、和真さんはすぐ立ち直るじゃないですか」

はいはい、そうです、すみませんでした、節操なくて・・・和真はがっくりする。

「じゃなくて、いきなり口内に出したら、お前、むせるだろうが?甲斐さんも、それ気にしてたんだろ?」

そんな・・・否定しかけて、色々思い当たる史朗、そして、やはり落ち込む・・・

「それってやはり、うまく出来ない私のせいですか?」

史朗の、そんなレアなダメっぷりに惚れ直したりする和真である。

「もしかして、甲斐さんって、史朗には本音明かさず、弱みも見せなかっただろう?」

年上で上司なら、さらにベタ惚れしていたらそういう事はあると予想された。

「そう、言われましたけど?ルナ・モルフォで。でもどうして和真さんがそれを?」

だ〜か〜ら〜と和真は再び史朗を組み敷いて耳朶を甘噛みする。ひゃっとビクつかせて史朗は潤んだ瞳を和真に向ける

「そういう顔、見せたくないという変なプライドだな。お前の前では常にクールな伊達男でいたかったって事。それってかなり

惚れられてると思うけど?」

まだ、意味が分からずキョトとんとしている史朗に和真は苦笑する。

「無自覚か・・・もっと簡単に言うぞ、甲斐さんは史朗の前で、喘ぎまくったりできないんだよ、それがプライド」

「何故ですか」

「お前がドン引きするかもしれないから」

へえ・・・途端に微妙な表情になる史朗の胸元を和真は弄る、そう、きっと史朗はそんな事は気にしないのだろう。

それよりも史朗は、本音の関係を望んでいたのだ、相手が自分に惚れているのかどうか確認できないと、不安で

どうしょうもないものだ。逆に嫌がられていると史朗は誤解していたではないか・・・

だから、自分は本音で史朗と向かい合おう、そう和真は決意する、史朗が寂しい思いをしないように・・・

「あのっ・・・和真さんはっ・・・ドン引きするんですか?私が・・・」

胸の蕾を執拗に嬲られて、荒い息の下で史朗はそう訊く。

「しないけど、むしろお前が不感症な方が辛い、今の顔凄い好きだぞ」

そう言って再び耳朶を喰む和真から、史朗は顔を背ける。

「やはり、恥ずかしいですね、甲斐さんの気持ちわかります・・・」

「いいの、史朗はそれでも思い切り流されて、翻弄されるタイプだから、というか、羞恥心がなきゃ、快感もないんだぞ?

俺はお前を不安にさせない、本音で付き合う。だから安心しろ」

甲斐と史朗が添い遂げられなかった訳が分かり、和真は安心する。史朗には自分の方が合っているのだという確信に繋がり

自信が持てた事が嬉しい。

「お前の方の準備ができたら、いくらでも咥えていいから待ってろ。拒否しないから気が済むまでしていい。いや、むしろ休日

は一日中咥えててもいいぞ?」

調子に乗るなと言いたい気持ちを抑え、史朗は黙って和真の指の侵入を受け入れる。

確かに和真は甲斐とは違う。甲斐のように受け入れ、包み込んでくれる器量がありながらも、年下だからか、甘えてくる

そして本音を明かす、それが安心できた。甲斐も今では、忠の下で、本音で甘えられているのだろうか?もしそうだとしたら

自分たちは収まるところに収まったと言える。

和真を愛する忠と史朗、支倉社長に愛された忠と甲斐、そして甲斐を愛した忠と史朗・・・4人の複雑に絡み合った赤い糸は

ようやく綺麗に解けてまっすぐ繋がった。これで良かったのだと、後悔は無いと、そう思えた。

「か、和真さ・・・もう、挿れてくださ・・・」

和真の指にほぐされて、顔を紅葉させて史朗は身悶えする。そんな快楽に正直な史朗がとても可愛いと和真は思う。

「あ、最後に言っとくけど、お前の口技は、最高だぞ?技術とかの問題じゃなくて、好きな人にされてるから感じるんだって事を

覚えとけ。それにたどたどしい初々しさも征服感があって興奮するし、上達なんかしないでいいからな」

耳元でそう囁いて和真は、開かれた史朗の脚の間に我が身を割り込ませた。

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