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あれから北条由紀緒は慎吾の職場には現れなくなり、電話で話しあう仲となった。

慎吾もようやく、マンションに帰れるようになり俊介との愛の日々を満喫している。宿題が一つ残されてはいたが・・・

「しかし、なんでわかったんだろう?俺の性癖」

スタンドの明かりで読書をしていた慎吾が、シャワーを終えて寝室に入ってきた俊介にそう、つぶやいた。

「ああ、なかなか調べるの苦労されたみたいでしたけど」

「完璧だと思っていたのになあ」

本を置いてスタンドの明かりを消し、ルームライトをつけるとベッドに腰掛ける。

「完璧なんて存在しませんよ〜現に僕たち同棲してますからねえ。それに・・・」

と俊介は慎吾の膝の上に座り、慎吾の首に腕を絡ませると肩に頬をもたせかけた。

「昔、そういうところに出入りしてたんでしょ?」

「あれは、充分気をつけてたし」

「飯田秀彰・・・もう忘れたんですか?」

忘れるはずなどない。数年前の一夜だけの相手が警察官になって現れ、俊介にちょっかいを出してきたのだ。

今思い出してもはらわたが煮えくり返る。

「多分、同じ種類の人間にはわかっちゃうのかもしれません」

そうだな・・・頷きつつ、慎吾は向きを変えて俊介をベッドに寝かせる。

「で、お前は本当にいいのか?この結婚」

「いい条件だと思いますよ。相手は男嫌いで女性の恋人がいる、僕が心配するような事は起こらなさそうだし、これで僕たちの

関係が疑われることもないんじゃないですか?まあ、二世帯同居の件は様子を見ましょう」

慎吾はまだ乗り気ではなかった。結婚自体、考えてもみなかった事なのだから。

「ああ、もう後で考えよう。久しぶりなんだから、そういう事忘れていちゃついていいか?」

そう言いつつ、俊介にのしかかり、パジャマを脱がしにかかっている慎吾。

久しぶり・・・本当にあの慎吾が、俊介無しでよく今まで耐えられたものだ。と考えている俊介自身も若干の寂しさを感じてはいたが。

「っあっ・・・」

いつの間にか、はだけられた胸元の突起を慎吾に唇で啄まれて、俊介の体は大きく跳ね上がった。

「どうしたんだ?いつもより反応いいじゃないか、お前も身体辛かったんだろ?俺がいなくて」

そんなわけ・・・ないと言いたいが、いつもより異常に腰のあたりが疼いて仕方がない俊介は、そっと腰を引こうとしたが、慎吾にがっしりと掴まれてしまった。

「逃げるなよ〜もうバレてるから。夜、俺がいなかったから溜まってるんだろ?解消してやるからおとなしくしろ」

パジャマのズボンも脱がされ、熱を帯びて硬さを増した俊介のモノは慎吾は手の中に収められた。

「もう限界っぽいんだけど、一回抜いとこうか」

えっ・・・慎吾を見上げたとたん、俊介の両足は開かれ、その間に慎吾の身体が割り込んできた。

「慎吾さ・・・」

少し起き上がった俊介の身体がのけぞった。生暖かい感覚と絡みつく舌の感覚が脊髄を走り抜ける。

「今されたら、僕、おかしくなります」

心以上に身体が、その何倍も慎吾を求めていたらしい事に、俊介自身も気づかなかった。敏感な部分は尚更、飢え乾いた様に慎吾の愛撫を貪欲に求め続ける。

一人寝の時は、それほど慎吾を欲することはなかった。見合いのことが気になっていたせいもあるが、それほど不自由はなかったのに、今は少しの刺激でも

いつもの10倍は反応している。

堰を切って溢れ出すように体中に押し寄せる波に翻弄され、打ち上げられるまでさほど時間はかからなかった。

全身の力が一気に抜けて、俊介は放心状態になった。

「おい、俊介・・・なんか、凄くないか?」

「凄いです。もうどうにかなってしまうかと思いました」

そう答える俊介はぐったりとして、目の焦点が定まっていない。

「出した量も半端ないけど、よがり方がもっと半端ないから。そんなに恋しかったか?俺が」

「みたいですね。心より、体のほうが慎吾さんを恋しがってたみたいです」

心より・・・慎吾は少し微妙な気分になる。

「俊介って、俺の身体目当てなのか?」

「そんな事ないですけど・・・でも、どうしてでしょうか。そんなに飢えていた訳じゃないのに、僕、身体が変です。悪い病気とかじゃないですよね?」

かろうじて会話しているが、俊介は完全に息が上がっている。

「何の病気?」

「セックス依存性とか」

なにそれ・・・俊介の隣に横たわっている慎吾は眉間に皺を寄せる。

「でも、普段は全然正常だし、俺が特別テクがすごいわけじゃないし、まあ、お前もともと溜め込んでたけどな」

「あの、変な事訊きますけど、今まで慎吾さんはその・・・溜め込まないで排泄してたりしました?」

はあ?慎吾は目が点になってしまった。

「!すみません忘れてください」

「いや、いいけど。俺の場合、歳だからさ。落ち着いてきてるというか・・・昔ナンパしてたみたいな精力はさすがにないんだ。

それにいくらなんでも職場で自己処理とか無理だし」

にしては、本庁入りの前に派手にやらかした職場プレイはなんだったのか・・・俊介には慎吾が謎だった。

「あ、だから、お前との事は例外だから。ほら、食欲無い時でも好物が目の前にあれば食っちまうって事。たぶん、お前がいなければ

このまま枯れてると思うぞ」

とても枯れているようには見えない慎吾に俊介は疑いの目を向ける。

「そんな歳じゃないでしょう?」

「いや、お前に会えなきゃ、あのまま枯れ果ててたと思う。失恋して、ヤケになった挙句の果てに、どうでも良くなってたから。

だから、俊介が接近してきても、相手にする気は無かった。もう誰かを想って心を磨り減らすような事はしたくなかったから」

長い間、慎吾が片思いし続けた八神達彦という人物に、俊介はもう何の感情もない。ただ、出会いが失恋する前でなくてよかった、そうぼんやり想う。

「なんで、お前は俺を好きになったんだ?ストレートのくせに」

「さあ・・・運命でしょうか」

その事については何度も自問自答してきたが未だに答えが出ない。

「俺が親父さんに似てるから、お前が俺に懐いたって親父が言ってたけど?」

それもあるのかもしれない。父親に抱きしめられたい思いや、保護されたい思いは心のどこかにあった。父を亡くしてからは俊介が母を守らなければならず

母に甘える事も出来ずにいたのだから。

「そうか〜僕は甘えん坊なんですね。慎吾さんをお父さんの代わりにしていたんだ」

はははと笑う俊介を、慎吾は首をかしげて見つめる。

「いや、でも、自分の親父とこういう事はしないだろ?でも不思議だな、俺はお前の親父さんに似ていて、お前は俺の親父に似ているって。

子供取り違えたのか?」

それだけ、稲葉俊一と三浦進はお互いを想いあっていたのだろう。成就しなかった想いは互いの息子たちを通して実った。

それこそが運命で奇跡なのではないか・・・

「まあ、それはそうとして、そろそろ再開していいか?」

慎吾の言葉に俊介はきょとんとする。

「えーと、なんでしたっけ?」

「いちゃついてた途中なんだけど」

あ・・・俊介は自分が脱力して、少し休んでいたところだった事を思い出す。

「すみません、慎吾さんまだでしたよね?でも大丈夫かな、これ以上はやばいかも・・・死んじゃうかもしれません」

「おいおい・・・死ぬなよ〜でもこれは収拾つけないと困るから」

と抱きしめられた俊介の腰のあたりに慎吾の腰の硬いものが当たる。

「ああ、それは大変ですね、じゃあ僕がしますから、慎吾さん寝ててください」

「それはまた、大胆な・・・」

滅多にない俊介の騎乗位に慎吾は言葉をなくす。

「大丈夫ですよ、僕だってもうちゃんとできるんですから。それにこれ以上刺激されたらヘロヘロになっちゃいますから」

サイドテーブルからローションを取り出し、てきぱきと準備を始める俊介が、慎吾には頼もしく見えた。

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