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とりあえず夕食に沐浴に、就寝準備を終えて、慎吾と俊介は寝室に入る。

「・・・腕、大丈夫か?繋がった骨がどうにかなったら、俺の責任になるじゃないか」

「ほとんど最終段階なんで、これぐらいでどうにかなりませんよ」

と笑いながら照明を消し、ルームライトをつける俊介の見上げつつ、ベッドのに横たわった慎吾はため息をつく。

「でもな・・・どうにかなっていてさ”何をしてこうなったんだ?”とか医者に聞かれたら、どう答えるんだよ?」

ははは・・・想像すると笑いが漏れてくる俊介。

「笑い事じゃないぞ」

「心配性だなあ・・・慎吾さんは」

慎吾の横に腰掛け、俊介は眼鏡を外し、スタンドの横に置いて、俊介は慎吾の隣に滑り込んできた。。

「心配するよ。さっきの何?乗馬初心者がいきなり早駆けして、無茶だって。擦り切れてないか?」

しーん・・・俊介の冷たい視線に慎吾はフリーズする。

「そういう露骨な言い方どうなんですか」

「じゃあ、どう言うの?次は優しくしてくれなきゃ嫌よ〜とか?」

ふう・・・溜息をついて俊介は考える。自分は今まであまり性的な事に関心が無かった。周りからも淡白だと言われてきたはずなのに・・・

今ではこんなになってしまった。この状態はいい事なのか、悪い事なのか?

「我忘れて無我夢中って、ヤバいですよねえ」

「まあ、それくらい俺にハマってるって事かな?」

「どうなるのか、この先心配ですね・・・」

慎吾に出逢い、同棲を始めて自分がかなり変わってしまった事を、俊介自身も自覚している。もう、慎吾無しでは生きていけないだろう。

もし、遠い未来別れが来たら、生きてゆけるのだろうか?それが怖くて仕方ない。

「なに?悩んでるの?」

俊介の前髪をかきあげつつ、慎吾は俊介の顔を覗き込む。

「だって・・・明らかに色ボケとか、淫乱とかそういう類じゃないですか」

何が・・・慎吾は答えに困る。

「皆、こんなものじゃないのかな。誰とでもそんなことやってるんなら別だが、固定されたパートナー間じゃ、無礼講でいいと思う

けど?」

「皆・・・って慎吾さんも今までそうでした?」

いいや・・・慎吾は首をふる。

「俺の場合は、割り切りだったから感情無し。メンテナンスって割りきってたからさ・・・正直、こんなにハマったのは初めてだけど

マジで、こんなに凄い好きで、寝てもさめても頭の中、占領されてて、見ると触りたくなって、征服された時の幸福感とかハンパないし」

え・・俊介が慎吾を振り返る。

「まさか・・・慎吾さんが?」

いつも余裕があって、俊介をリードしていたはずの慎吾が・・・俊介は信じられなかった。

 「白状するとな、さっきは、いつも以上に余裕無かった。なんでこんなにお前の事好きなんだろう」

あっさりと敗北を認める事も、慎吾はいとわない。

「お前は、乱れても清らかで美しい。こんな男は初めてだ」

「でも、さっき早駆けして、無茶したって」

「それは、お前の腕の骨と、尻を心配して・・・え、何?俺がお前の事、下品だとか色ボケとか、淫乱とかって見下したと思った?」

あ〜あ・・・慎吾はため息をつきながら、腹ばいになって、隣の俊介の頬を撫でる。

「そんな訳ないだろ?乱れた俊ちゃんは大歓迎なのにぃ〜」

また、ふざけて・・・半信半疑な俊介の目が慎吾を見つめる。

「本当だから。今日なんか、朝から署長室で書類チェックしながら、昨夜のお前の姿思い出して、一人でにやけて

バカオヤジみたいになってる自分に呆れてたんだからな。絶対俺の方がお前にイカれてるっていう自信がある」

(そんな自信無くていいですよ・・・)

少し、俊介の顔がほころぶ。

「はやく全快して、心置きなく乗馬して欲しいなあ」

ええ・・・俊介の渋い顔に、慎吾は俊介の頬を軽くつまむ。

「嫌なの?」

「だって、やはり恥ずかしいですよ。そりゃ、腕に負担の無い体位だと思ったから、さっきはしたけど」

「凄く愛されてる実感がしたんだけど?たまには俺も愛されたいなあ・・・」

「え?キスしてあげてもダメですか?」

「もっと色々して欲しい」

いきなり何を甘えているんだか・・・俊介の顔が緩む。

「じゃ、してあげますよ・・・何でも」

「ほんと?」

いきなり起き上がる慎吾に、俊介は驚いて焦る。

「あ・・今すぐじゃなくて、腕が治ったら・・・」

「勿論、今、無理強いなんかしないから。でもその気持ちだけでも嬉しいな〜」

そうなんですか・・・意外な、お子様っぽい慎吾の表情に俊介は愛しさが増す。

「あ、それと・・・させてくれる?」

「何をですか」

「色々」

ええ・・・まだ色々は抵抗のある俊介である。

「いや、ヘンなことはしないから。怪我させるようなこともしないから」

「その時考えます。ヘンな道具持ってこないでくださいね」

(ないよ!そんなの)

心で突っ込みながら、実は自分以上に”色々”に妄想を働かせている俊介に呆れる。

「俺はそんなに変な奴じゃないぞ?俺のこと誤解してるだろ!」

 「してませんよ」

そう言いながら大笑いしている俊介を睨みつつ、慎吾は再び、ごろんと仰向けになった。

「傍にいてくれるだけでいい、なんて絶対嘘だよな」

「年をとって、枯れてきたらそんな感じになるんじゃないですか?」

「いや、デキなくなっても、いちゃいちゃしてると思う」

ふうん・・・頷く俊介の頭を、慎吾はぽんぽんとたたく。

「今回でお前も気づいたと思うけど、俺たちのやってる事は、抜く為の行為じゃないって事」

さんざん抜きまくられても満たされず、とうとう慎吾を襲ってしまった俊介は深く頷く。

 「お前に逢うまでの俺は、抜く為の行為に徹していた。やはりお前は、俺にとって特別なんだ」

だったら・・・嬉しいけど・・・俊介は微笑む。

「それが愛情だとかなんとか、クサい事は言いたくないけど、でも好きって想いは否定しない」

(ずっと、永遠に、この人を虜にしていたい)

俊介はそう思う。

囚われ捕らえ・・・恋は迷路だ。どちらが先に溺れたとか、どちらがより想いが深いとか、そんな事は知る術が無い。

しかし、俊介の心が慎吾に捕らえられている以上、自らも慎吾を捕らえていたい。それがただのわがままだったとしても。

「骨を折って、気付く事も色々あるんですよね」

うん 慎吾も頷く。

「骨折様々だね〜一緒に風呂に入れたし、俊ちゃんの騎乗位体験できたから、収穫は大きかったな。だからってもう

怪我は金輪際ゴメンだけど」

「ですよね、慎吾さんも怪我しないでくださいね。というか・・・慎吾さん、そんなに一緒にお風呂入りたかったんですか?」

「うん、また今度、洗ってくれる?」

「シャンプーとか、背中を流すとか?」

「いや、泡立てた俊ちゃんの身体で俺のこと洗って欲しいな〜」

タガが外れた慎吾の発言をスルーして俊介はスタンドの明かりを消す。

「もう寝ますよ」

え〜〜〜

慎吾は暗闇の中で半泣きになった。

 

 

 

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