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慎吾が帰ってくると、俊介はソファーでうたた寝をしていた。傍には掃除機が置いてある。掃除して疲れて眠ってしまったらしい。
(ああ・・・こいつ可愛い・・・食いたいくらい可愛い)
微笑みながら、寝室に入り、着替えを済ませて再びソファーの前に戻り、そっと儚げな俊介の唇に触れてみる・・・・
半開きの唇から白い歯が見えており、恐る恐る歯をなぞっていると、あろう事か、するりと指が口内に侵入してしまった。
(ヤバイ)
思わず手を引っ込めて、俊介の隣に腰掛ける。その振動で目覚めた俊介が慎吾を見つめた。
「ああ、お帰りなさい。すみません、うたた寝しちゃって・・・」
「いや・・」
「お茶いれましょうか」
と、立ち上がろうとして、よろけた俊介は慎吾に抱きとめられ、慎吾の膝にまたがる格好で座り込んでしまった。
「すみません・・・」
「お前、腰立たないとか?」
「いいえ、まさか・・・寝ぼけたんですよ」
確かに、どこと無くボーっとしている。
「転んで、腕に何かあったらどうするんだ?」
そう言いつつ抱きしめると、ギブスの腕が二人の距離を邪魔している。
「慎吾さん」
膝の上にまたがっている俊介に、いきなりキスされて、いつもと違う積極的な態度にうろたえる慎吾。
「まだ・・・足りないのか?」
なけなしの強がりで、慎吾はそう挑発してみるが、俊介の重みと体温に徐々に余裕をなくしつつあった。
「足りないのは慎吾さんじゃないんですか?昨日あの後、大変だったんじゃ・・・」
否定できない自分に、慎吾は言葉をなくし、苦笑する。俊介に心配されているようじゃどうしょうもない。
遊び人の過去が廃れるではないか。
「僕だけなんて、嫌ですよ」
「それは・・・光栄なんだけど今はお前、怪我人だし・・・」
自分を気遣って遠慮がちな慎吾がもどかしくて、ギブスの腕を慎吾の背にまわし、俊介は慎吾を抱きしめた。
「満たされない原因は、一つになれない事だったんですよ」
それは、慎吾も実感していたところである、が・・・
「でも、お前、昨日の今日で大丈夫なのか?」
「昨日の今日だから・・・ですよ。寝た子起こされた感じなんです」
確かに中途半端にくすぶっていた火種を焚き付けてしまったような気もする。
(何もしなければそのまま耐えれたのだろうか?いや、でも昨日は俊介、超限界だったし。やはりああいう時は抜いとかないと
あいつ一人じゃ処理できないしなぁ)
だらだらと一人で考え込んでいる慎吾に構わず、俊介はソファーから降りて慎吾の足元に跪く。
「え・・・と・・昨日のお返しからしますか?」
まさかそんな言葉が俊介の口から出るとは。慎吾は驚きを隠せずにいた。かなり昨日の事が負債になっているらしい。
「いや、残念ながら、その必要は、なさそうなんだが・・・」
え?と視線を落とす俊介の目に、慎吾のスラックスの隆起した部分が飛び込んできた。
「!慎吾さん・・・いつから」
先ほど、偶然に俊介の口内に指が入ってしまったあたりから、俊介のキスやハグでだんだん膨張したらしい。
「お前、乗っかって無意識に擦りつけてたろう・・・」
これじゃあ、聞き分けがないのは俺の方という事になるのではないか・・・慎吾はなんとなく決まりが悪い。
「さっきから何か当たってると思ってたんですよね。て、まさか職場からじゃないですよね」
「それじゃ変質者だから・・・」
「かなり、禁欲を強いてしまったんですね・・・僕・・・」
膝元で申し訳なさそうにつぶやく俊介に、慎吾は半泣きになる。
「そういうとこ見つめて、しみじみと言わないでくれるか?惨めになるから」
ようやく決意して慎吾は立ち上がると、自分も俊介も、もうこのままでは納まらないであろう事を自覚して、俊介を立たせ
パジャマのボタンを外してゆく。
「無理しなくていいから。俺自身、あんまり長持ちしないと思うし」
そう言いつつ俊介のパジャマのシャツを肌蹴たままで、ズボンを下ろす。
足元に降りたズボンから両足を抜くと俊介は、ソファーに上がり跪くと、下ろされたスラックスから現れた慎吾の腿の上に腰を降ろした。
膝の上にいる俊介の肩口に舌を這わせつつ、慎吾は俊介と自分のもの二本を掌で把握し、一緒に摩擦しながら、俊介の吐息を耳に感じ
る。何故か俊介には出会った当初からリードされているというか、引きずられている感じが無くは無い。
「俊ちゃん、昨日あんなに してあげたのに、もうここが聞き分けないよ?」
「慎吾さんが擦るからですよ・・・」
俊介が腰をくねらせるのを見計らって、慎吾はゆっくり臀部に指を這わせ、その割れ目に指を埋め込んでゆく。
あっ・・・一瞬のけぞり、その後は悶えるように身をくねらせる俊介の媚態に、ただ慎吾は見惚れた。
「そうか・・・ここが寂しかったんだ?」
思いっきり俊介に魅かれている自分が少し悔しくて、悔し紛れにいじめてみる慎吾。
「もう、来て・・・寂しくて、おかしくなりそうです・・・」
俊介は限界が来ているのか、否定せず素直に慎吾を求めてきた。羞恥心で否定する俊介も愛しいが、素直に懇願してくる俊介は
その何倍も愛しい。
「腰を浮かせて」
浮いた腰に、慎吾は先端を擦り付ける。
「もうっ、じらさないで」
俊介の蕾は慎吾を飲み込もうと降りてくるが、慎吾は彼の腰を掴んで、それを阻止した。
「ダメだ、もっとゆっくり、自分で加減しながら」
言われるままに、ゆっくりと腰を落とし、下ろし終えた時、俊介の眉間にしわがよった。
「かなり奥まで突き上げるだろ?苦しいか?」
「大丈夫です」
快感なのか苦痛なのか区別がつかない感覚が押し寄せて来る中で、さらにきつく慎吾にしがみつくと、俊介は無我夢中で
腰を動かし始めた。
それはまるで、幼い子供が空腹を満たすために、我を忘れて食物を口に運んでいるような、欲望に正直に従う純粋さが感じられ
それ自体が、実は生きている実感であり、生の煌きでもあるように慎吾には思えた。
慎吾は、俊介に侵食されていく自分を感じる。
自分は今、稲葉俊介のものになっている。身も心も俊介の中に取り込まれている・・・こんな不思議な一体感は初めてだった。
自らの肉を貪っている俊介よりも、慎吾はもっと、自我をなくしていた。
「もう・・・出る・・」
深い何かに導かれて、慎吾は果てた。それは、久しぶりの行為だったとか、欲望の蓄積とは無関係の何か・・・しいて言うならば
切ないほどの恋情・・・
下半身の結合が解かれた瞬間、慎吾の口内に、いきなり俊介の舌が滑り込んできた。
(完全に俺、食われてる・・・)
これほどに、余裕をなくした行為は初めてだった。
(完全に溺れてるし・・・)
自分を嘲笑う。悔しいが、敗北さえも心地よい。
俊介になら、侵食されても本望だとさえ思えた。
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