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「あのう・・・なんだか、洗ったのに汚してませんか・・・」
慎吾の手の中で達した慎吾は恐る恐る訊く。
「いいや、手で受け止めたから、問題ない」
笑いつつ、シャワーで自らの手を洗っている。
でも・・・と、俯く俊介の身体のボディソープの泡をシャワーで洗い流す慎吾・・・
もうすでにまくれ上がり、意味を成さなくなった腰のタオルは慎吾によって取り去られた。
「もしかして、むくむくと起き上がるのを隠すためだったのか?これ」
「だって・・・絶対・・・こうなるって判るから・・・慎吾さんに触られたら・・・」
「看護婦だったら、どうだったかな?」
え・・・そんなこと言われても・・・俊介は困る。
「担当の看護婦が言ってたぞ?稲葉さんは真面目で紳士だから、そんなことないって」
「嫌だな・・・そんなこと言われるなんて・・・でも、きっと、慎吾さんだから、反応するんです」
「まあ、それはわからないけどな〜でも、男でも、女でも、誰であろうとお前の身体に触れるなんて許せないから。
ましてや全裸のお前にこんなことって許せるか!」
そんな話をしながら、俊介の身体中のソープのぬめりを洗い流してゆく慎吾。
「僕も、他の人なんて、嫌です。慎吾さんにされるのは・・・恥ずかしいだけで、嫌じゃないですよ」
「嬉しい事言ってくれるね〜」
と笑顔で、前方も流し終えた時・・・今しがたおとなしくなった俊介の下腹部が再び、自己主張を始めているのが見えた。
「これ・・・さっきすすぐ時に擦ったから・・・かな?」
「スルーしてください・・もう・・」
どうしょうも無く、俊介は顔を背ける。
「でも、愛する俊ちゃんの分身が苦しそうなのは、見過ごせないなあ」
そんなあ・・・俊介は途方にくれる。ほとんどきりが無い状態になる事は、目に見えている。
それほど溜め込んだという自覚がある。
はうっ・・・
いきなり俊介の膝に顔を伏せた慎吾の後頭部を見て、俊介は青ざめた。
「何してるんですか!だめですよぉ」
全力で慎吾の肩を押して引き離した。
「大丈夫、さっき綺麗に洗ったから」
「でもダメです」
「え〜俊ちゃんは俺にしてくれたのに?」
「いつですか!いつそんなこと・・・」
・・・酔っ払って・・・脳裏に浮かんだ、おぼろげな記憶・・・
「ごっくんしてくれたのにぃ〜」
なんですって!青ざめる俊介にお構いなく、慎吾は微笑む。
「お返し、したいだけだから・・・」
少し俊介がフリーズした隙に、慎吾は再び口で俊介を愛し始める・・・
あ、しまった・・・・・・慎吾さん・・・・しかし、それ以上拒む気力も無かった。
所詮、片腕しか使えない身、抵抗して叶うはずも無く・・・
それよりも巧妙な舌術にすでに抗う事も出来なくなっていた。
気づくと俊介は、パジャマ姿で寝室に横たわっていた。
だるいような、心地よいような疲れがじわじわと押し寄せてくる。
「ごめ・・・やりすぎた。吸い尽くしたかもしれない。心置きなく、ぐっすり寝ろ」
たしかに、ぐっすり眠れそうではあるが・・・
「怒った?」
「怒りませんよ・・・凄い気持ちよかったし」
「ほんと?またしてもいい?」
しかし、自分だけ・・・慎吾は何の解消にもなっていない・・・それが俊介にはつらい。
「すみません、僕ばっかり・・・」
「気にするな、じゃ、先に寝ろ。俺は風呂に入ってくるから」
笑って、俊介の前髪をかき上げると、慎吾は寝室を出て行った。
それを見送り、俊介はいつの間にか深い眠りについた。
朝、むくりと起き上がった俊介は、目の前の出勤の準備をする慎吾の姿を見つけて慌てた。
ーあ、寝過ごした・・・−
「もう少し寝てろ。つーか今日一日寝てろ」
ネクタイを締めつつ横目でそう言われ、昨日の痴態を思い出し、俊介は俯く。
「さすがにやりすぎたかなと思ったんだけど、それもお前のがなかなかおとなしくならないから・・・」
スーツ姿の慎吾はベッドに腰掛け、俊介を抱きしめた。
「まったく、こんなんで俺に会う前はどうしてたんだか・・・」
「慎吾さんに会うまでは、聞き分けが良かったんですよ。だんだん不安になって来ました」
「なぁに?俺が開発しちゃった?」
(なに、その勝ち誇ったような笑顔・・・)
俊介は呆れて言葉もでない。
「とにかく、今日は一日パジャマっ子で休んでろ。行ってくるよ」
額にキスして慎吾は出て行った。
すっかり妊娠中の妻と夫のようなシチュエーションになってしまっている。
(早くギブスとれないかなあ・・・)
片腕では愛する人を抱きしめる事さえ出来ないのだという事を、しみじみと実感していた。
(しかし、俊介可愛いなあ・・・出逢った時はあんなに清純だったのに今じゃ・・・)
署長室で、朝一で書類に目を通しつつ、慎吾は一人にやけていた。
しかし、よく考えてみると、開発されたのは俊介ばかりではない。
実は慎吾自身も・・・
割り切った一夜のつきあいは、どちらかというとメンテナス的なものだった。悪く言えば排泄行為・・・
そう言う意味では、ドライな性生活を送っていたともいえる。
特定の誰かにハマるなどという事は一切無かった。数多い今までの相手の顔も、誰一人記憶に無い。
それが・・・
どんどん、稲葉俊介という男にハマって行く。
戸惑いながらも、必死に慎吾に全てを捧げてくる健気さがたまらない。
恥ずかしがる媚態も、全身全霊で求めてくる淫靡な様も、自分にだけ向けられていると思うと、愛しくてたまらない。
今まで関係を持った男の中でも、淫乱な男はいくらでもいた。しかし、乱れながらも清く、美しい男は初めてだ。
(まるで、麻薬だ・・・)
おそらく、警察病院の看護婦達は、昨日の俊介のあんな姿は想像もつかないだろう。
清純で綺麗な王子様の、夜の姿を知るのは自分だけだ・・・今までも、これからも。
誰も知らない。自分だけの妖花だ。
(しかし、いつギブスとれるんだろう・・・いつまでもお預けじゃ身が持たないんだが)
書類にサインした後、慎吾はため息をついた。
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