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食後のコーヒーを飲みながら、慎吾は風呂の準備を始める。

「あと30分で沸くから、待ってろ」

はい・・・なんとなく、俊介は落ち着かない。

「経過が順調でよかったな。やっとさっぱり出来るぞ〜まあ、もともと、お前は油っぽくないから、コテコテにはなって無いけど

それでも風呂は入れないのはきついだろう?」

(慎吾さん・・・どうして、そんなに楽しそうなんですか・・・)

泣きたいような気分になってしまう・・・・

「それより、今日は定期報告会だったんでしょう?こんなに早く帰ってきて良かったんですか?」

「ああ、飲み会をパスしただけだからな。だって、お前を風呂に入れなきゃならんし」

「一人で大丈夫です」

「片腕で、どうやって頭洗うんだ?背中は?」

それは、そうなのだが・・・

「なんで?俺じゃ嫌か?何なら、親父に頼むか?」

(それは、もっと嫌です・・・)

「平気平気、俺とお前の仲じゃないか」

確かに、誰かを選ぶなら慎吾しかいない。看護婦に入れてもらうのは論外だ。

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいって。というか、俺ら毎晩、かなり恥ずかしい事してきてるよな?」

「そんな事言ったら、もっと恥ずかしくなるじゃないですか!」

あ〜あ〜慎吾はため息をつく。

「いつまでも初々しいねえ。というか、マジ、俺は風呂に入れてやるだけで、ヘンな事考えてないないからな

浴室プレイは、ギブス取れてから改めてやるつもりだし。あ、そろそろいいかな?湯加減見てくる」

立ち上がり、浴室に向かう慎吾を見送りつつ、俊介は困り果てる。

しかし、もう逃げられない。そして、これ以上、風呂に入らないで我慢する事も出来ない・・・

「お湯沸いたから。早く来いよ」

と、俊介のパジャマと着替えを持って、慎吾は浴室に入っていった・・・・

 

ギブスをビニールで巻き、密閉した俊介は、浴室の椅子に腰掛け、慎吾にシャンプーされていた。

「その微かな抵抗は、なんなんだ?」

頭皮をマッサージしつつ洗う慎吾は、俊介の腰に巻かれたタオルを見て首をかしげる。

「いいんです・・・こうしてないと落ち着かないんだから」

「今更隠す事無いじゃないか?そこそこ自慢できるぞ?自信持てよ?」

「!そういう事ではありません。僕だけ全裸で、慎吾さん服着てるじゃないですか?」

洗ってやっている慎吾は、シャツとズボンを捲り上げた格好なので、かえって俊介は羞恥心が増すのだ。

「え?じゃ俺も脱ぐ?いや、辞めとくわ・・・」

丁寧にシャンプーした後、リンスまでしてすすぎ終えると、慎吾はスポンジにボディソープをつけて泡立てた。

「なんか・・・色々と久しぶりな気がするなあ」

と自分の椅子を持ち出し、俊介の後ろに座ると、背中を流し始めた。

「色々・・・って?」

「俊介の白い背中見るのとか。つーか・・・こうして触るのも久しぶり」

スポンジを持たない方の手で、慎吾は俊介の首筋から肩、背中を撫でまわす・・・

「ひゃぁっ・・・」

しゃっくりのように一瞬俊介の体がびくつき、悲鳴のような声が漏れる。

「辞めてください・・・くすぐったいです」

「くすぐったいの?」

意地悪な笑いを浮かべて、慎吾は再び俊介の身体を洗う。

「前も洗うぞ」

俊介と向かい合った状態で跪くと、慎吾は俊介の耳の後ろから首筋、肩、胸とスポンジを滑らせた。

浴室なので、俊介は眼鏡をかけてはいない。目の前の慎吾は、ぼんやりとしか見えないが、慎吾からは自分がはっきり見えるのだと

思うと、急に頬がカッと熱くなった。

「あ、のぼせてきた?顔赤いぞ?」

「顔、見ないでください・・・」

俊介が俯いているうちに、慎吾は両足を洗い終え、一息ついた。

「さて、残りは・・・タオルの下だけなんだが」

「ここだけは、じっ、自分で洗います!」

「でも、左手じゃ洗いにくいと思うよ?」

変にニヤニヤして、意地悪な笑いを浮かべる慎吾を、俊介は睨みつける。

「ダメです!絶対ダメです」

タオルを押さえつけて放そうとしない俊介を、慎吾は見つめる。

「もしかして・・・大変な事になってる?そこ。でも、そういうもんだって看護婦が話してたぞ」

 

最近、別件で慎吾が警察病院に行ったついでに、俊介の主治医のところによって、経過を尋ねたことがあった。

ー検査して経過が順調なら、そろそろお風呂の許可下りますよー

廊下で会った看護婦にそう言われた。

ー介添え要りますよね?−

ーええ、病院に来てくだされば、看護婦がお風呂入れますよー

ええ!驚いて立ち止まる慎吾を見て、連れの看護婦が大笑いした。

ー何でもありませんよ〜それくらい。私達の仕事ですから。でも、若い人だと勃っちゃったりする事ありますよー

ーいやぁねえ・・・もう。でも、稲葉さんは真面目そうだし、紳士だからそんなこと無いわよー

ーでも、なんか・・・そうなった 稲葉さんって凄く可愛くない?私介助してあげたいなー

 

そんな看護婦達の会話を聞き、慎吾は何があっても俊介の沐浴の介助は、他人にはさせまいと心に誓ったのだ。

 「看護婦の話じゃ、沐浴の介助していると、若い男は・・・そういうこともあるって。だから、お前を看護婦に渡したくなかったんだ」

「そうですね・・・僕も、看護婦さんの前でこれじゃ、死ぬほど恥ずかしいですよ」

「だから・・・俺なら、平気だろ?」

ええ・・・と頷きつつ、実は慎吾だからこそ、こうなったのかも知れないとも思えた。

「実は、ずっと耐えてただろ?洗ってる間。まあ、利き腕が使えないんじゃ自己処理も無理だし、たまってるんだろうけど」

「慎吾さん!」

困ったような俊介の顔が可愛くて、もっといじめたくなる・・・

「キツいだろうから、抜いてやるよ」

ええっ!

慎吾のボディソープを泡立てた手が、するりと俊介の足の付け根に滑りこんできた。

「ちょっ・・・」

暴れている上半身は、慎吾の左腕に抱きとめられ、巻かれたタオルの下で、その部分は慎吾の手で念入りに洗われる事になった。

 

 

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