33

 

 

 「今日は稲葉の昇進祝いで宴会だ」

事件がひと段落ついて、課長の田山がそう切り出した。

「奢りだろ?やっぱ・・・」

ええ・・・金の問題ではなく、酔っ払う事が問題の俊介は、途方にくれる。

しかし、職場が何処であれ、酒宴は避けられない宿命である。

 

「昇進祝い?」

昼休みに俊介から携帯に連絡があり、慎吾は眉をしかめる。

ある程度、毎日の晩酌でスキルはあげてみたが、不安が残る。

「俺がついていったらダメか?」

「そんな・・・お母さん同伴の過保護じゃあるまいし、恥ずかしいですよ」

絶対課長に飲まされるに決まっている・・・

 「しょうがないな・・・」

今回だけではない。これからも酒の席は付いて回る。

「帰る時、電話しろ。目立たないところでひろってやるから・・・」

そう言って一旦電話を切る。

 

「稲葉・・・飲み会大丈夫か?お前酒弱くない?」

 午後の業務が始まったとたん、相棒の白石が心配して聞いてくる。

「日々訓練はしているんですけどね・・・」

だからと言っていきなり酒豪にはならないのが世の常。途中抜けも今回は難しそうだ・・・

「ウチは皆、飲むより帰りたい奴らだから、さっさとお開きにすればいいさ。でも課長はきっと最後まで残っていると思うけど?」

ですよねえ・・・・・・・俊介はため息をつく。

 

 

案の定・・・・・

10時過ぎた頃には、皆、一人、二人と去って行く・・・

「稲葉ぁ〜〜」

激酔いしている田山の横で、俊介は一人途方にくれていた。

「あ〜あ〜こんな事だろうと思った」

聴き慣れた声がして、振り向くと突然現れた救いの神、三浦慎吾・・・・

「慎吾さん・・・」

「置いて帰りゃいいのにさ・・・」

「でも・・・」

ため息と共に、慎吾は携帯を取り出すとタクシーを呼び、ひき続き田山の自宅に電話をかけた。

 

「あれでよかったんですか?」

慎吾の車で帰る途中、俊介は心配げにつぶやく。

「大丈夫だろ?ちゃんと行き先告げてタクシーに乗せてやったし、課長の奥方にはちゃんと話したから、家に着いたら

受け取ってくれるだろう」

 そんなものなのか・・・・助手席で悩みつつ頷く俊介を慎吾はちらりと一瞥する。

「気にするな。ただの酔っ払いなんだから。それよりお前、酔っ払ってないな、よしよし」

「訓練の賜物ですかね」

「訓練は大事だ。しかし・・・まったく酔わなくなるとつまらないんだが・・・」

なんでですか・・・俊介はしょっぱい顔をする。

「お酒が入ってエロモードな俊ちゃんて、可愛いんだもの〜」

「慎吾さん!」

俊介に叱られて、大笑いしながら慎吾はマンションの駐車場に車をとめて、ドアを開けた。

「他の奴には禁止だけど、俺にはそれくらいの特典があってもいいんじゃないのか?」

「僕の意識が無いって言うのが嫌なんですよ」

そうだなあ・・・・笑いながら慎吾は夜空を見上げる。

「そりゃ、素面であんな事してくれりゃ〜最高だけどさ・・・」

「て・・・僕何したんですか一体?」

車から降りて、慎吾に詰め寄る俊介を慎吾は軽くかわす。

「秘密〜」

「ずるい〜」

ははははは・・・・・

俊介も、思ったよりは、酒の席をそつなくこなしているようで、慎吾は安心した。

自分の傍に置くと言う事は、俊介も自分と同じくらいに、何事もこなせなければならないと慎吾は思っている。

そうでなければ、誰かがその位置を奪いに来るだろう。

いつも守られている存在・・・それは不安定で足手まといになる。

慎吾は俊介に同等の能力と力を望む。時には自らの位置を狙い、奪い取るほどの雄雄しさと猛々しさを要求する。

それでこそ我が相棒と言えるのだ。

(これからだ・・・俊介はどんどん伸びてゆく)

そう信じている。

守り、いとおしむだけが愛ではない。

俊介が女ならそれでもいいが、男である限りは、彼を一人前に鍛え上げるのが先決だ。

俊介の父が慎吾の父に与えたのはそんな愛情だったのだ。

エレベーターを降りると、俊介はポツリとつぶやいた。

「慎吾さん・・・僕の事、心配でたまらなくて来たんでしょ?」

俊介も理解しているのだ。自分が慎吾と肩を並べられる程にならなければならない事を。

そしていつか、慎吾の役に立つ部下になりたいと思っている。

「気にするな。お前が頼りないとかじゃなくて・・・田山にお前取られてるのが嫌だったし」

俊介がドアを開け、二人は部屋に入る。

そして鍵をかけると慎吾は、俊介をリビングのソファーに連れ込んだ。

「もう、限界来てる・・・・」

ソファーにいきなり押し倒されて、呆気にとられた俊介に、慎吾は詰め寄る。

「家で待つとさ、頭の中が俊介だらけなんだよな。仕事とかで夜別々なのと全然違うんだ・・・」

くすっ・・・どちらかというと、家で慎吾を待つことが多い俊介は笑う。

「少しは僕の気持ち判りました?」

緩んだ俊介の唇は、いやおうなしに慎吾に塞がれた。

「ちょ・・・酒臭いでしょ?」

「いい」

「寝室・・・行きません?」

「ここでいい」

「服が皺になりますよ・・・」

「じゃあ、脱げ」

と、さっさと脱がされてゆく俊介は、慎吾を一人にした事を少し申し訳ないと思った。

(にしても・・・これじゃ、まるでお子様じゃないか・・・)

「笑うな」

慎吾に言われて、俊介は口元を引き締める。

「でも、来てくださって嬉しかったですよ。白馬の王子様が助けに来てくれたって感じでした」

そっと慎吾の背に腕を回す。

「たまには、お姫様になるのもいいなって・・・」

「俺には頼っていいから」

はい・・・頷いて俊介は慎吾を引き寄せた。

 

 

TOP        NEXT 

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system