30
3泊して、洋子は帰っていった。
冷蔵庫には手作りの漬物各種が入れられている。
「慎吾さんが、日本食が好きだって話したから、白菜とか、なすとか、色々置いていきましたね・・・」
洋子抜きで夕食を摂る俊介と慎吾。ぽっかり穴が開いたような気分になる。
「親公認だから、俺達、怖いモノ無しか・・・」
職場も、あれから何事も無く平和だ。
「そろそろ、俊介も昇進するかな・・・」
同じ署に、いつまでもいられないだろう。
「そうなると、配置換えですよね・・・」
同伴出勤が当たり前になってきていた俊介は、ふと、現実にかえる。
「うん。でも大丈夫だろ?マンションに帰れば、いつでも会えるし。毎晩一緒だし、何も変わらないさ」
そうですね・・・・力なく頷きつつ、俊介は食器を流しに運ぶ。
「何?寂しいの?」
後ろから同じく、食器を持って慎吾が俊介の後ろにつく。
「さびしい・・・ですね・・・」
「あ、でも飯田みたいな奴がいたら、俺に言うんだぞ?どこの署の奴でも手まわして、左遷させるから」
「そんな事、できるんですか・・・」
慎吾と並んで食器を洗いつつ、脱力気味な俊介。
「俺がダメなら、親父がいるし・・・俺がチクってやる」
はは・・ようやく俊介から笑いが漏れた・・・・
「あ〜笑った〜〜やっと笑った・・・」
嬉しそうにする、子供のような慎吾に、俊介はさらに笑いを漏らす。
「慎吾さんて、案外純粋なんですね・・・」
「なにそれ?」
「世間慣れしてて、ドライで世渡り上手・・・じゃなかったんですか?」
手を布巾で拭いて、俊介は慎吾に、バスタオルとパジャマを差し出す。
そう言われれば、そうかも知れない・・・だんだんキャラが崩壊してくるのを感じた。
もっとも、世渡り上手・・・は、もともと彼の本質ではなく、作られた物だから気を抜くと、そこからズレるのはしかたない。
「自然体なんだ、お前といる時は・・・たぶん。」
バスタオルとパジャマを受け取り、慎吾は浴室に消えてゆく。
「自然体の慎吾さんが、僕は好きですよ・・・」
つぶやくような俊介の言葉に慎吾は、ほっこりする。
一緒にいても邪魔にならない、苦痛じゃないのは、俊介が本音を晒せる相手だから・・・
そこまで心を許したのだ。
それは俊介の母、洋子にも感じた。きっと、父、進にとっての俊一が、そのような存在だったのかも知れない。
「俊介も、風呂行ってこい・・・」
浴室から出て、冷蔵庫のミネラルウォーターのボトルを取り出しつつ、慎吾は俊介に呼びかける。
「はい・・・」
自室から出てくる俊介に、慎吾は首をかしげた。
「何してたんだ?」
「調書のまとめを・・・持ち帰っちゃいました。今、終えたから、大丈夫です。」
「なんだ、それくらい明後日まで待ってやるぞ?」
「いえ・・・・課長が・・・」
ああ・・・慎吾は頷く。課長の田山は、何かにつけて俊介を目の敵にしていた。
「でも、今日は残業無しで帰りたかったし・・・」
「そうそう、3日ぶりだもんな。さっさと寝室でいちゃいちゃしたいよなあ〜」
ええ・・・もろ本音を言われて、照れ隠しにうつむき、俊介はそそくさと浴室に向かう。
(あれ?ストライクど真ん中?図星だったのか?)
ー違います・・そんなんじゃありません・・・ー
という反応を予想していた慎吾は、俊介の意外な反応に戸惑った。
「考えれば、3日空いたくらいなんだけどさ・・・」
就寝準備をして、ベッドに横になった慎吾がつぶやく
「何ヶ月も空いたような気がしますね・・・」
続いて、俊介もベッドに入ってくる・・・
「あ?俊介もそう?」
「やはり、淫乱な悪い霊がとり憑いているんでしょうか・・・」
「いや、お前はまだ若いし・・・今まで相当溜めてたみたいだし・・・」
どんな言い方ですか・・・俊介は苦笑する。
「でも、そんなに思ってくれて、嬉しいなあ・・・」
半分冗談ぽく言うと、慎吾は俊介抱き寄せる。
「俺もお前に会うまでは月に1.2回だったけど」
「そうなんですか?!」
「仕事忙しいし、そんな事ばっか考えてるわけじゃないし、ナンパは別に趣味でしてるわけじゃないし・・・・
て言うか、お前、俺の事、誤解してるぞ?」
「見かけによりませんね」
え・・・俊介、酷い・・・半泣きな慎吾。
やはり、モテるイメージが強いのかも知れない。
「恋人とかいないと、そんなものだろう?」
ましてや、八神達彦という本命がいたのだから・・・
「でもきっと、こうして、腕枕で眠るだけでも幸せだし、満たされるし、スキンシップが必要だと、そういうことですよね」
「そうなの?じゃあ、今夜はこのまま寝るの?」
ん〜〜〜と・・・・困った顔で考えている俊介が、可愛くて仕方が無い。
「とりあえず、ちゅーとかしませんか・・・」
そう言って顔を近づけてくる。
そのまま、長いくちづけの後、慎吾は笑ってのしかかる。
「じゃあ、とりあえず、脱いでみようか〜」
(なんか、可愛い・・・この人。)
自分が可愛い系なのも忘れて、俊介はそう思う。
こんな事を言ったら、嫌がられるだろうから、言わないけど可愛い。
こんな可愛い慎吾を知っているのは自分だけだろうと思うと、余計に可愛く思える。
「おい・・・」
慎吾は、考え事をしている俊介に、怪訝そうに声をかけた。
「3日ぶりなのに、うわの空は無いだろう?」
「ああ・・・いえ、僕はやはり、慎吾さんが好きなんだなあ・・・としみじみ思ってたんです」
「しみじみじゃなくて、激しく実感しようなあ〜」
はあ・・・
(やはり、この人、可愛い・・・)
思わず漏れた俊介の笑いに、慎吾は眉間にしわを寄せる。
「俊介〜〜〜まじめにしろ・・・でないと咥えるぞ」
ええ〜〜〜!!!
「もう、そういう余裕、与えてやらないからな」
そう脅されて、必死でじたばたする俊介の可愛いさに慎吾は、にんまりする。
自分が俊介に、可愛いと思われているとは知らずに・・・
ヒトコト感想フォーム |
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。 |