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「だから今日は母さんが、おじ様に会いに行って、いないんですね」

夕食の支度をして、洋子は進に会いに行った。

洋子の作り置きした夕食を食べ終えて、俊介と慎吾はソファーに並んで座る。

「いきなり帰ってこないで、帰るコールするから、ゆっくりしてろと言われた」

「何なんですか?それ?」

俊介は意味が判らない。

「バレてるって事さ」

え?どうして?何処でバレたのか・・・俊介は首を傾げる。

「お前、実家で俺の事、何か話したか?」

ああ・・・俊介はしょげる。

「ひたすら褒め倒しました・・・でもそれだけで判るなんて、ありえないですよ」

「母親の勘を甘く見るな。安心しろ、反対はされなかったから」

「反対は出来ないんです・・・・僕、父さんの日記を見てしまったんです。この前、帰った時に」

じゃあ・・・・俊介も、父俊一と進への思いを知っているのか・・・・慎吾は俊介を見つめる。

「父さんは・・・おじ様の事」

「それ、嫌か?」

「いいえ、辛かったろうなあ・・・って。僕は慎吾さんに突進して、困らせたけど、父さんはずっと一人で気持ちを押し殺して

きたのかって。日記には本当に、おじ様の事ばかり。愛してくださいなんて要求は微塵も持たないまま、相手の幸せだけを

願い続けていました。母と結婚する時に、母には総て話したらしいから、母も知っています」

慎吾は笑って、俊介の肩に腕をまわす。

「俺も昨日聞いた、お袋さんから、お前が寝た後にな。今の親父がいるのは、お前の親父さんのお陰だ。こんな風に

人を愛する事は、俺には無理だけど、気持ちは解る。」

「話したんですか・・・母さんが?」

「ああ、親父には内緒だって。言うなよ?」

因縁なのか・・・運命なのか・・・二人はしばらく言葉を亡くす。

 

「ところで・・・」

沈黙の後、慎吾は俊介を見る。

「いちゃついてろと、言われてもなあ・・・」

「母さんがそんな事を?」

そうですかと、その気になれない慎吾がいる。

「親のいない間に、コソコソってなんか嫌だろう?」

ああ・・・・俊介は頷く。

「でも、慎吾さんは困ってるかな・・・と思ってました」

「人を何だと思っているんだ?俺は結構、癒されてるんだぞ、お前のお袋さんに」

母親の不在が永すぎて、忘れてしまっていた、母親のいる風景・・・それを思い出させてくれた。

そして、洋子には、俊介と同じ匂いがして、俊介と離れていても、満たされていた。

「ウチの母さんなら、いくらでも貸しますよ?なんなら今夜、膝枕とか、してもらいますか?」

「そこまではいい・・・デカイなりして、恥ずかしいだろう」

「そうですね〜僕でもしませんからねえ・・・」

「これからも、お袋さんは、いつでも、大歓迎するよ。」

そうなんだ・・・・・俊介は笑う。慎吾にとって、洋子が、俊介との仲を邪魔する存在ではなかった・・・

「また呼びましょうね・・・」

うん・・・・

「とりあえず、風呂に入ってから、お茶するか・・・」

慎吾は立ち上がる。

「お茶入れますね」

俊介も立ち上がる。

 

 

 

「洋子さん、耳に入れておかないといけない事があるんだ・・・」

レストランで食事の後、カフェに場を移して、三浦進は重い口を開く。

「もしかして、俊介と慎吾君の事?相思相愛て事は、なんとなく判ったわ。」

え・・・進は声も出ない。

「一緒に住んでるなら、もう他人じゃない。そういう事よね・・」

「すまない。俊一にも合わせる顔がないよ」

俊一さんのほうが、すまないと思っているかも知れない・・・洋子はそう思う。

「俊一にどこか面影が似ている慎吾に、俊ちゃんが懐いて、付きまとったらしいけど、最終的に拒絶できなかった慎吾が

悪いと思っている」

洋子は頷く。

「確かに、慎吾君は俊一さんに似ているわ。私だって、昨夜話していて、錯覚しそうになったもの。でも、こういう事は、

どちらが悪いわけでも、ないと思うし」

「いや、慎吾は、もともと男相手の薄利多売な奴で・・・」

「じゃあ、やっと本命を見つけたってところかしら?」

すんなり受け入れる洋子に、進は戸惑う。

「俊介が幸せそうなのよ・・・慎吾君からは、メロメロなオーラ出てるし。なんか、私があそこにいるとお邪魔って感じでね〜」

「洋子さん・・・」

コーヒーカップを両手で包み込み、洋子は視線を落とす。

「進さん、ごめんなさい。将来、慎吾君の結婚に少なからず、支障が出てくるかもしれない」

「あいつは、女に興味ないから、諦めてるよ。政略結婚なんかで縛られる事なく、自分の愛する人と幸せになって欲しいんだ」

自分の叶わなかった願いまで、変わりに成就して欲しいと思った。

「進さんは、後悔してないよね?」

ああ・・・笑って進は立ち上がる。

「送っていくよ」

 

車に乗り込むと、洋子は帰るコールを、慎吾にした。

「私がいない間に、いちゃいちゃしてなさいって言ったのよ」

はははは・・・進は苦笑する。

「洋子さん、カミングアウトしついでに言うけど・・・俺、俊一の事好きだったんだ」

「そんな事、知ってるわよ」

大笑いする洋子を制して、進は話を続ける。

「違う、惚れてたんだ。告白して拒否られた。その後、あいつは俺から離れていった」

え・・・・洋子は混乱した。

「やはり、迷惑だよな。男に惚れられても・・・といっても、俺は同性愛者とかじゃないよ。俊一だから好きだったんだ」

大どんでん返しを食らい、洋子は言葉も無い。

「だから、小百合の事も愛せた。あいつは俊一とは正反対で、俺が守らなきゃ生きていけない女だった。だから俺は

頑張ってこれた。こんな俺にも、守れるものがあるという自信が今の俺を作ったんだ」

(ああ・・・・同じだ・・・・)

洋子は、なぜ自分が選ばれたのか、俊一に聞いたことがある。

ーお前は、進とは正反対だからだ。守らなくても自分の足でしっかり立って歩ける。時には俺の事も支えてくれる・・・

進の事を思い出さなくていいからー

「馬鹿ね・・・」

進を一人前にするために身をひいた・・・相思相愛でありながら・・・

ーいくら愛していても、進を女の代わりには出来ない。あいつは男なんだ・・・−

そんな愛情もある。傍で守って生きたい・・・そんな慎吾のような愛情もある・・・

慎吾のマンションの前で、洋子は車を降りる。遠ざかる進の車を見送りつつ、彼女はつぶやいた。

「死んでも、相思相愛だったなんて、教えてあげないわよ。」

少し微笑んで、洋子は車に背を向けた。

 

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