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三浦副総監から電話があり、退勤後、都内のレストランに俊介と慎吾は呼び出された。

「またいつものお食事会か?」

慎吾は案内された予約席に座り、腕を組む。

「遅いですね・・・おじ様・・・」

誰かを迎えに上野駅に行くとか言っていた事を思い出す。

「あ、来たぞ・・・・」

慎吾が父親の姿を見つけた。

「あれ・・・女連れだ・・・まさか再婚相手?」

「いえ、母さん・・・です・・」

一緒に来る女性は、俊介の母、洋子だった。

 

 

「洋子さんが一度、俊ちゃんに会いに来たいって言ってね・・・」

そう言いつつ、席に着く三浦進・・・・

「どんなとこに住んでるのか見たくて、来ちゃった」

ウエーブの長い髪を後ろで束ねた、40代の美しい洋子に、慎吾は驚く。

若作りはしていないが、歳より断然若く見えた。

どこか、俊介と同じ無邪気な印象を受ける。

「お店は?」

夫を亡くした後、結婚前に勤めていたケーキ屋で、もう一度働きだした彼女は、高齢のため、跡継ぎもなく引退した店長から

店を引き受け、今では田舎町で唯一、お洒落なパーラーにまで発展させた。

「従業員に任せてきたわよ。今じゃ皆、私無しでも大丈夫だし、何軒か暖簾分けしてチェーン店持ってるのよ〜」

「洋子さんはさすが、やり手だなあ・・・」

慎吾は、女性の隣で笑っている父の姿に、非日常的なものを見る。

(いつも女に愛想無いのに・・・・)

「進さんは、見るたびに貫禄ついてきて・・・遠い人になっていくみたい」

しかし、これが、昔 俊一が信じた進の未来の姿なのだろう。

「今じゃ警察で一番怖い、鬼の副総監ですよ」

慎吾がそう言って笑う

「息子さん・・・慎吾君だっけ?会うのは初めてね」

「こいつは俺には、似なかったんだ」

三浦進の言葉に、洋子は笑う

「そうね〜男前だけど、儚げな優男じゃないわね」

話が弾んでいる洋子と進に、疎外感を感じる俊介と慎吾。

その間に料理は運ばれてくる・・・・・

 

「慎吾君て、若いのに署長さんなんですって?凄いわね。俊ちゃんの上司なんでしょ?この子頼りないから、

よろしくお願いします。一人暮らしもなんだか心配だったんだけど、慎吾君と一緒なら安心ね。

 慎吾のところに間借りしていると言う事は、俊介がすでに話していた。

「でも・・・この子がいると、彼女連れ込めないでしょ?どうするの?」

どきっ・・・・そう来るか・・・慎吾は作り笑いをする。

「彼女なんて、いませんから・・・」

「こいつは、女に興味ないんだよ。」

進の言葉に、洋子は目を丸くする

「真面目なのね・・・・さすが進さんの息子さんね。残念だわ。俊ちゃんに男女交際の手ほどきでもしてもらいたかったんだけど・・・」

し〜〜〜ん

妙に気まずい進、慎吾、俊介・・・

(男女交際どころか、男とデキちゃいました・・・・)

3人は顔を見合わせる・・・・・

「ところで、洋子さん。今晩、俊ちゃんのところに泊まるか?」

「ビジネスホテルにでも部屋とるわ。慎吾君いるのに、悪いじゃない?」

「あ、俺、実家に行きますけど?二人で部屋、使ってください」

「慎吾さん・・・それじゃ職場が遠くなりますよ?」

 申し訳なさそうに俊介が言う。

「慎吾君が平気なら、私は慎吾君と俊ちゃんと一緒でもいいけど?オバさんと一緒は嫌?」

俊介と同じ、人懐っこさで洋子はそう言って笑う。

「私には、俊ちゃんも慎吾君も息子みたいなものだから。慎吾君もお母さん代わりに思ってくれれば・・・」

「住んでる部屋とか、ご覧になりたいでしょうし、ぜひ、来てください」

父親と、俊介の父との事を訊きたい気持ちもあり、慎吾はそう誘った。

「ありがとう。突然ごめんね〜」

「どれくれいいるんだ?一日くらい、俺にあけてくれるよな?」

「そうね。今じゃ、俊一さんの思い出話が出来る相手って、進さんくらいだもの・・・・」

二人の会話を聞きつつ、慎吾は父の意外な一面を見る。

女性と、こんなに親しく話している父は初めてだ。

そして・・・・ふと思う。自分と俊介との事を話すのかも知れないと・・・・

 もし訊かれたなら、正直に話すつもりだ。ヘタに隠すつもりは無い。

何よりも俊介を大事に思っている気持ちを、誠心誠意伝えるつもりでいる。

「ゆっくり出来るのなら、ゆっくりして行ってください。俺も、親父がそんなに頼ってたっていう、俊介の親父さんの事、聞きたいです」

こうして、突然の来客を慎吾と俊介は迎えた。

 

俊介が、空いている部屋に布団を敷いて、ダイニングに出ると、慎吾と洋子は楽しげに話している。

「母さん、布団敷いたからね。」

「ありがとう、明日の朝は、お母さんが朝ごはん作ってあげるから、ゆっくりしてなさい」

洋子も、やっと経営者として、現場から離れてゆっくり出来る時が来たようで、俊介も安心する。

「もう、働き蜂にならなくていいんだね、」

「俊ちゃんとゆっくりできるなあ・・・と思った頃には、俊ちゃんは独り立ちか・・・寂しいね」

そういいつつ笑って、カラのコーヒーカップを持って流しに行く洋子。

「こっちで暮らす?母さん・・・」

慎吾の向かい側に座って、俊介は笑ってそう言う。

「いいわよ〜お邪魔虫になるの嫌だわ・・・どうせそのうち恋人作って、母さんの事忘れるんでしょ・・・あ、慎吾君、おやすみ〜」

と洋子は部屋に入っていった。

「何話してたんですか?楽しそうでしたね」

「お前の小さい時の話。面白かったぞ?」

もう・・・・

俊介は苦笑して、テーブルに置かれてある自分のコーヒーを飲む。

「すみませんね、当分、寝室別ですね」

「お袋さんが、せっかく来てるんだから、俺はそんな事でどうこう言わないぞ?」

ははは・・・

笑いながらも、俊介は、慎吾が早くに母を亡くしていたことを思い出して頷く。

「そうですね・・・」

「親父、話す気かな・・・」

隠すのもどうかと思うが、聞きもしないのに話すのもどうかと思ったりする。

「どうせ、おじ様にバレたんだからバレついでにバラしたら・・・・」

人事のように、ひょうひょうとしている俊介に慎吾は呆れる。

「反対されたら?」

「しないと思います・・・・」

なにか意味ありげなその言葉に、慎吾は眉間に皺を寄せる。

(どういうことだろう・・・・)

「なんとなく、これは、父さんからの因縁だと思うから」

伏し目がちな俊介の顔を見つめつつ、慎吾は隠された事実を思い図る・・・・・

 

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