23

 

 

慎吾が署長に就任して一週間経つころ、本部長の巡回を受けた。

そして、三浦副総監の息子という事で、退勤後の酒の席を余儀なくされた。

ー先に帰ってろ。戸締りに気をつけて。何かあったら連絡しろよー

俊介を一人で帰す事に不安を感じつつ、送った。

飯田の事が気にかかって仕方が無い。

明らかに飯田は俊介に執着している。そして、彼は人のものを奪う事に生き甲斐を感じるタイプなのだ。

慎吾から俊介を奪って、慎吾に勝とうとしている。

そんなくだらない男の自己満足のために、俊介が傷つくことは避けたい。

「その歳で、すでに署長とは・・三浦警視は本当にサラブレットですな・・・」

父と同い年くらいの本部長に酒を注がれる慎吾・・・・

警視総監の息子の八神達彦は、七光り、八光りと言われ、慎吾はサラブレット。

この違いは何なのだろうか・・・慎吾は苦笑する。

「まだまだ若輩者です。よろしくご指南ください。」

隣には副署長、課長が座っている。

年配に囲まれ、一人だけ二十代・・・居心地が悪い。

確かに、周りは表面的には慎吾を持ち上げている。

いづれは自らの上司になる男なのだから・・・・

「失礼・・・・」

合間をぬって、手洗いに立つ。俊介の帰宅を確認するために。

店の外で、俊介の携帯にかける

ーあ、慎吾さん?今鍵を開けて入るところです・・・・−

ドアの前で電話をとったらしい・・・・・・

「飯田には会わなかったんだな・・・ちゃんと鍵かけておけよ?」

一安心・・・と電話を切ろうとしたとき・・・・・

ー飯田?なんでここにいるんだ・・・・どうやって入った?−

まだ通話中の電話口から、俊介の声が聞こえた。

(飯田?飯田が、中にいるのか?鍵がかかっている部屋の中に?)

「おい!俊介!」

電話は切れてしまった・・・・・

いつもしまっているところに部屋の鍵が無い・・・・俊介がそんな事を言っていた。

次の日・・・・・それは職場の俊介の机の引き出しの中にあった。

そんなところに入れた覚えは無いのに・・・・俊介は気味が悪いと言っていた。慎吾は非常に嫌な予感がした。

(あいつ・・・鍵をくすねて合鍵作りやがった・・・・)

そして、今夜、慎吾が接待で留守・・・絶好のチャンスだ・・・・

祈るような気持ちで、父に電話する。

ーおお、慎吾か・・・−

「親父、今何処だ?」

ー家にいる。久しぶりに早く帰って来れてな・・・・・ー

「すまないが・・・俺のマンションに行ってくれないか?すぐに。合鍵は持ってるよな?」

ーどうしたんだ?−

「今、俺のところに俊介が間借りしているんだが、そこに飯田という新人巡査が入り込んでるらしい。

前にもあいつ、俊介にちょっかい出してたんだ」

ーなに?−

「俺は本部長の接待で抜けられないから、代わりに頼む。早くしろ。かなり危ない状態なんだ」

ー判ったー

詳しい事情は話す時間が無い。とりあえず、俊介を救わなければならない。詳しい話はその後だ。

とりあえず、慎吾は安心して席に戻る

俊介の事となると、無条件に父親は動くという事を知っている。

飯田の犯行現場を目撃したなら、左遷どころか、首にする事も考えられる。

とにかく、飯田を父に処分させられるなら、一石二鳥だ。

とりあえず、席に戻ると、酒宴はかなり盛り上がっていた。

「三浦君、何していたんだ。さ、飲んで・・・」

と再び酒を注がれる・・・・

 

 

 

 すばやく玄関先に来た飯田に、携帯の電源を切られた。

「三浦警視と話してました?でも、彼、今抜けられませんよね?」

笑いつつ飯田はドアの鍵をかける。密室が出来上がった・・・・・

「どうやって・・・」

俊介の前に飯田は鍵を翳す。

「合鍵、三浦警視にもらいました。実は再会してから、また付き合い始めたんですよ」

そんな訳は無い・・・見え透いた嘘だ。会うなら外で、俊介に知られないように会うだろう。

ここの合鍵を渡すはずなど、あるわけが無い。

数日前、なくした鍵を、入れた覚えの無い職場のデスクの引き出しに見つけた・・・・・

 「僕の鍵を奪って、合鍵を作ってから引き出しに返した・・・・そういうことか・・・・」

「そんな事はどうでもいい・・・いつまで玄関にいるつもりですか?」

こんなところに1秒もいたくない。きびすを返して鍵を開けて出て行こうとする俊介を、飯田はすばやく中に引き込んだ。

「飯田!」

無理矢理ソファーに座らされた俊介は、怒りをあらわにした。

「これは犯罪だぞ」

「こういうことは、日常茶飯事ですよ」

「何を言う?君は警察官だろう?」

「警察官も人間ですから・・・」

飯田はそういいつつ、俊介のネクタイを解く。

「人間のすることじゃないだろ・・・こんなことは・・・」

「人間じゃなきゃ・・・何なんですか?動物だとでも?」

解いたネクタイで飯田は俊介の両手首を縛った。

「知ってます?動物は人間より善良だって?警察官なら、いろんな事件を見てきたでしょう?殺人、詐欺、強姦・・・動物は同じ種族で

殺しあうことは無いんですよ」

俊介のシャツのボタンを外しつつ飯田は話し続ける・・・

「オスはメスに求愛して、断られたら引き下がります。ましてや1対複数の交尾などありえない・・・わかりますか?人間は動物以下です。」

肩を押されて、俊介はソファーに倒れる。縛られた腕を振り上げて抵抗するが、たやすく飯田につかまれ、のし掛かられる。

「動物は・・・・オス同士で交わったりしない・・・・」

そんなに悪い事なのか・・・・三浦慎吾という人を愛した事が・・・

俊介は答えが出せずにいる。

「だから・・・とことん堕ちなさい」

近づいてくる飯田の顔から、俊介は顔を背ける。

「間違っていても、汚れていても僕は、三浦警視を愛している事を恥じることは無い。」

「まだ、自分だけ綺麗でいるつもりですか・・・」

「君には関係の無いことだ。」

「いい加減にしろ」

ガッッー

殴られた頬がしびれて感覚が無い。頬の内側が切れて、口内に血の味が広がる・・・

「あなたみたいな人は、好きだけれども嫌いだ・・・・」

イライラし始めた飯田が、残虐性をあらわにする。

「素直に認めろ。お前は自分の欲を美化して愛だと言っているだけなんだ」

俊介の首に両手をかけ、飯田は力を入れる

「心配するな、殺しはしない。俺は、好きな奴をいじめるのが好きなんだ」

息の詰まらせながら、俊介は耐えた。

悲しいのは飯田・・・憎しみは無い。ただ、悲しかった。

本当の愛情に出会うことが無かった彼は、愛情に背を向けている。

愛情の存在さえ認めない・・・・・

今まで、どれだけの孤独と空しさを抱えて生きてきたか・・・・

俊介の目から涙が流れる。

「君が・・・本当に愛せる人と出会う事を祈るよ・・・」

一瞬、飯田の手が緩んだ。

 

「ここで何をしている?!」

飯田の肩を掴んで、俊介から引き剥がす腕があった。

「おじ様・・・・」

三浦副総監の姿を見て、俊介は安堵した。

「オヤジこそ何者だ?人んちに気安く入ってくるんじゃない。」

「人んちじゃなくて、ここは私の息子の部屋だ。親が息子のマンションを尋ねて何処が悪い!」

「飯田・・・この方は、三浦警視のお父さんだよ。」

俊介の言葉にはっとする。

「ということは・・・・三浦副総監?」

三浦進は俊介を縛っていたネクタイをほどき、俊介を抱き起こした。

「手を拘束して、唇が切れている・・・これは明らかに暴行だが・・・名前と職業は?」

いきなり職務尋問が始った・・・・・

「飯田秀彰、町田署の刑事課の巡査です」

「そうか、追って沙汰する。ここから立ち去れ」

 

負けた・・・と感じた。

慎吾は自分の代わりに、副総監の実父をここによこした・・・・

飯田は紛れも無く、現行犯だ。

「失礼いたします・・・」

とりあえず引き下がるしかない。

出てゆく飯田の背中を見つめつつ、俊介はソファーにくずおれた。

 

とりあえず、俊介の受難はこうして幕を閉じた。

 

  TOP        NEXT  

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system