18

 

 

二日酔いの無い俊介は、朝から朝食作りに忙しい。

「朝ご飯ですよ〜慎吾さん」

寝室に入ると、ワイシャツに腕を通している慎吾がいる。

「あれ、慎吾さん、この歳で、はしかですか?」

胸元に紅い斑点が散らばっている。

「これ、ひどいよな。つーか、覚えてないのか?」

鏡で首周りをチエックしながら、引き出しから出してきたクリームファンデーションで痕跡を消し始める

「何ですか?それ?」

「化粧品・・・しみ隠しだけど、こういう痕も消せるから応急処置さ」

「なんでそういうものが、簡単に出てくるんですか?」

あ・・・

墓穴を掘った気分になる。前例を立証してしまった。

「つーか、お前!誰のせいだと思ってるんだ?これは内出血だから、明らかに暴行だぞ?」

「僕が、何をして、そうなったんですか・・・」

「体中舐め回して、吸い付いてきた」

え・・・・俊介は固まる。

(とうとう、そんな事まで・・・・)

「絶対、他の奴にはあんな事するなよ。俺にはしていいけど」

「あんな事・・・」

まだ余罪がありそうで怖い俊介。

「胃カメラ上手に呑んだだけあって、なかなか上手かったぞ。俺とした事が、昨日はすげー早かったな・・」

何の事かさっぱり判らない俊介は呆然とする。

「まあ、昨日はお預けかと思いきや、俊ちゃんの接待を受けられて光栄でした」

はあ・・・

これ以上聞きただすのも怖くて、俊介はダイニングに向かう

 

「もう、お酒飲まないほうがいいんでしょうか・・」

朝食をとりつつ、俊介は悩む

「外では控えろ。特に俺がいない席ではな。家では引き続き免疫をつけるぞ」

「でも、ご迷惑をおかけしたようで・・・」

「迷惑じゃないけど。結構いい思いさせていただきましたよ〜」

はあ・・・・

「酔った俊ちゃん、マジでエロい・・・清純なおぼこい顔で、あんなことするから普通の何倍もエロい」

「もういいです・・・いじめないでください・・・トラウマになりそう」

「褒め言葉だよ〜〜」

そうですか・・・・

力なく俊介は立ち上がり、食器を洗い始める。

慎吾は、彼をそっと後ろから抱きしめて囁く

「でも、ああいう事は、しらふの時にして欲しいな。。そしたら、もっと嬉しいかも。」

この記憶の無さがとてつもなく恐ろしかった。

 

 

「稲葉、新しく配属された新人のめんどう見てくれ」

田山がそう言って、大卒の巡査を連れてきた。

飯田秀彰、長身のモデルのように洗練された男だった。

「はい、稲葉俊介ですよろしく・・」

もう、慎吾は現場には戻らないので、新しい相棒が与えられた。

「先輩、キャリアなんですか〜凄いですね」

傍目にどっちが先輩で、どっちが後輩か判らないくらい、秀彰は落ち着いていた。

「いや、あまり特別扱いは好みませんので、普通に対応して下さい」

「じゃあ、俺に敬語、使わなくていいですよ?」

見るからに社交的なタイプだ。世渡りもお手の物で、世間慣れしていた。

こういうタイプは苦手だ・・・・と考えて俊介はふと気付く。

慎吾もそんなタイプでなかったか・・・・と。

しかし慎吾のそれは、作られたもの。彼のは、生まれつきの才能だった。

悪くいえば、日和見・・・

美しい容姿を最大限に利用して、決して嫌われない人間関係を築いている。

それが、どこかわざとらしくて俊介は好きになれなかった。

 

「先輩一人暮らしですか?」

昼食時間に、弁当を広げながら飯田は訊いてくる

「いや、間借りさせてもらってるんだ。先輩に。」

「同棲ですか?」

「同居だよ。」

「どんな人か気になるなあ・・・」

なんで?気にしなくていいです・・・心で拒絶してしまう。

「今度、遊びに行ってもいいですか?」

「すみません、仕事関係をプライベートにまで持ち込みたくないんで・・・」

「あ、嫌ってます?俺の事?」

切れ長の美しい瞳がのぞきこむ。嫌われない自身を持つ者の強気だった。

「僕、そんなに社交的じゃないんで・・・そういうお付き合いは負担になるから」

なんとなく、慎吾とのスペースに割り込まれたくなかった。

「先輩、真面目ですね。そういうスレて無い人好きですよ」

好かれても困る・・・俊介は苦笑する。

しかし・・・ふと気付く。

慎吾に出会った頃の俊介も、ひたすら付きまとっていた気もする。

3日で告白した自分と、この飯田はあまり変らないのではないかと・・・

(それでも、慎吾さんは受け入れてくれたんだ・・・)

一つ間違えば迷惑この上ない行為であろう。

(やはり、慎吾さんは心の広い人だなぁ・・・)

そんな思いをめぐらせて、ふと顔を上げると飯田が穴が開くほど見つけていた。

「先輩は、本当に可愛いですね」

 なんとなく判ってしまった・・・・・

何故、飯田を自分がこんなに警戒するのか・・・

狙われているのだ・・性的な対象にされている。

最初から、秀彰は物色するように俊介を見ていた。

 しかし・・・・

酔ってセクハラした挙句に告白して、慎吾を困らせた自分を思うと、責められない。

一目ぼれ、そんな事もあるだろう。

自分のは純愛。他人のはセクハラ・・そんな都合のいい理屈は通らない。

そう必死に考えた。

嫌ってはいけないと。

彼の気持ちを、受け入れる事は出来なくても、邪険にすることは人道に反している。

そう思いつつ、どこからとも無く湧いてくる不快感と戦っていた。

 そして、不快に感じれば感じるほど、慎吾に会いたくなった。

この言い知れない不安は、慎吾の笑顔ひとつで、すっと無くなっていく気がするのだ・・・

 

 

 

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