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   遅い昼食を、ダイニングでとる慎吾と俊介・・・

「とっても一日を無駄にしてませんか?朝寝坊しちゃったし・・」

冷蔵庫の残り物でチャーハンを作り、テーブルに置く。

「俺は、無駄とは思わないけど?なかなか有意義だったな〜」

「またそんな事を・・ところで、慎吾さんは非番の時は何をしているんですか?」

スプーンを手渡しつつ、俊介は席に着く。

「映画鑑賞?借りてきたDVDで。あとは読書とか・・・ソファーでぼーっとしてる事もある」

俊介は、慎吾が案外インドア派なのに驚く。

「慎吾さんって社交的に見えるのになあ・・・」

「いや。一人が楽なタイプだぜ。職場のアレは処世術だよ。」

そんな自分が俊介と暮らすなど、少し前では考えられなかった。しかし、今では俊介無しではいられない。

「俊介は、非番は何してるんだ?」

スプーンを手にとって慎吾は訊く。

「食料の買出しですかね・・・広告で、安いところチェックして、あちこち廻って・・・・」

「主婦じゃあるまいし・・・もう、そこまで自炊に徹底しなくていいぞ?たまには外食して外でデートもいいしな。」

「そうですね。二人で、どこか行くのも楽しそうですね。」

友達も、彼女が出来れば、友情より恋愛重視。あまり遊んでもらえなかったりして、退屈していたのだ。

「とりあえず、俺にとっては、お前との時間は少しも無駄じゃないって事さ」

ふっ・・・笑って俊介は食後のコーヒーを飲む。

「それに、お前にばっかり、おさんどんさせるわけにもいかないし。」

「これは癖だから。一人暮らしなのに、インスタント食品で済ませて・・・なんて出来ない性質なんですよ」

「メシ以外なら、掃除、洗濯は一応、俺もするし・・・」

ええ・・新婚のような雰囲気がとても幸せだったりする。

「でも、そのうち、問題も出てきますよ。二人暮らしとは、そういうものでしょう?」

 ああ・・・それは避けられない。が、長所も短所もひっくるめて愛せなければ本物ではないのだろう・・

そう慎吾はぼんやり考える。

「まあ、俺は結構、外見と中身が違うから、愛想つかされる可能性はあるな」

ははははは・・・俊介は大笑いする

「それはミステリアスでいいですね」

「だから、俺、結婚とか絶対無理だと思ってたし。」

「愛想尽かさない人を探せばいいのに・・・」

笑って俊介は慎吾にコーヒーを差し出す。

「俊介は俺のすべて受け入れたから、この先何があっても平気だよな」

はあ・・・俊介は曖昧に頷き、流しで食器を洗い始める。

「まあ、慎吾さんが自然体なのが一番いいんじゃないですか?」

こう見えて、俊介は結構度胸が据わっているのだと、慎吾はなんとなく感じる。

「僕、これから本とか、コッチに運びますね。昨日の引越しの続き・・・」

手を布巾で拭きながら俊介は振り返る。

「3段ボックスでも買ってこようか?」

「お願いします」

休みの日でもなければ、なかなか引越しも難しいので、今日中に済ませたい。

「クローゼットは一つ空けてやるから、服はそこに入れろ」

寝室に着替えはあったほうがいい。

「あとは、おいおい買い揃えます」

午後の引越し路程はこうして始る・・・・

 

 

すべて運び終えたのは夕方・・・・・

「これで従妹夫婦に、いつでも引き渡せる」

空いている一部屋に本を運び、コタツ机とノートブックを入れると、書斎もどきの出来上がり。

「コタツ持ってるんだ・・・」

「一人暮らしはこれ便利ですよ。コタツで寝るとあったかいし」

「冬、リビングで一緒に使わないか?」

「慎吾さんが入るには、窮屈じゃないですか?」

かなり折れ曲がらないと入れない気がする。

「好きなんだけどな・・・」

どうしてこう、似合わないものが好きなのか・・・

「じゃ、冬は二人でコタツしましょう」

 「袢纏とか着てコタツ入るといいんだよな〜」

どうしても似合わないものに魅かれるらしい。

「さてと・・・夕食の準備しますね」

俊介は立ち上がると、部屋を出てダイニングに向かう。

「あ、そうだ」

慎吾は思い出したように、ジャケットのポケットから小さな箱を取り出し、中のピアスを取り出す。

「これさ、してみないか?」

18金の地金の、小ぶりなスタッドピアスである。

「穴がふさがってなきゃいいんだけど・・・」

といいつつ、俊介に装着している。

「警察入るまではしてましたから、多分ふさがっては無いですよ」

「これでよし。とりあえず18金だけど、いつかダイヤ買ってやるから」

 まるで意味が判らず、きょとんとする俊介。

「プライベートでだけでもいいから、しろよ。」

「どうして?」

「好きなんだ。ピアスの耳いじるの・・・」

はあ・・・俊介は試しに自分の耳に触れてみる。手持ち無沙汰にいじるにはいいかもしれない・・・・

「でも、わざわざ買わなくても、こういうタイプなら僕、持ってたのに・・・」

「いや、これは俺の所有印だから。」

それって首輪みたいなモノ?俊介は苦笑する。

「目立たなくしてるのが色っぽいだろ?」

やれやれ・・・呆れるが、そういうこだわりがロマンチストなのかもしれない。

しかし、俊介自身、慎吾と離れている時も傍にいるような気になれて、嬉しかったりした。

「では、ありがたく、つけさせていただきます。目立たないんなら、ずっとつけてようかな・・・」

髪で隠れて見えないので、大学時代はずっとつけていたのだ。

冷蔵庫を空け、ジャガイモを取り出し皮を剥き始める俊介に、慎吾はダイニングの椅子に腰掛けて忠告する。

「出会う前にあけた分には何にも言わないが、今後は俺の断り無く、身体に穴あけるなよ」

いきなり亭主関白になっている慎吾に俊介は呆れる。

「お前の身体が傷つくの嫌なんだ」

「矛盾してませんか?」

ピアスつけさせたかと思うと、次はピアスホールを開けるなと言う・・・・

「もう、あいちまったものは仕方ないけどさ。俺がその場にいたら絶対あけさせなかったぞ」

そんなオカンっぽい慎吾が、意外で笑いが漏れる。

「まあ、僕も好きであけたわけじゃないですから。勢いで、やっちゃったと言うか・・・」

「そういう、無鉄砲なところが心配なんだ。つーか、こんな心配、他の奴にしたことなんかないんだが・・・」

今まで、誰が怪我しようが、特に気にも留めなかった。

「根は優しい人なんですよね」

たまねぎを涙ぐみながら切る俊介に、慎吾は苦笑する。

(いや、お前限定でな)

 俊介といると、優しい気持ちになれる。

今までの自分をすべてリセットしたくなる。

自分の手で守りたい、ただ一人の最愛の人・・・

たまねぎを切る俊介の後ろ姿に微笑む。

きっと、言葉では言い表せないだろう。どれだけ自分が俊介を愛しているか・・・

繋がって、なお実感した。そして見つけた、新しい自分を。俊介の中に・・・・

 

 

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