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朝、起きてみると、自分の部屋ではなかった。

(またやっちゃったのかな・・・・)

俊介はむっくり起き上がる。隣に慎吾が寝ている。

(ああ・・・覚えてない・・・)

あれからハイになって、飲みすぎた・・・

今日から通い婚などと、冗談を言いつつ、慎吾の部屋に移動したところまでは覚えている。

しかし・・・今度は服を着たままの状態である。

(しわくちゃだな・・・ああ・・・先輩も服着たまま寝てるし)

「あ、稲葉ぁ・・・」

慎吾が目覚めて起き上がった。

「あの・・・これはどういうことなんでしょうか・・・」

「どうもこうも・・俺までうっかり寝ちまった・・・ああ〜皺だらけ・・・」

疲労がたたって・・・というより、心労がたたったと言うべきか・・・

俊介と上手く話がまとまって、ほっとした事もあり、気が抜けたのだろう。

「6時30分・・・シャワーしてくる」

ベッドから降りて部屋を出て行く慎吾を、俊介はぼーっと見送る。

(ああ〜もう絶対酔っ払わないと決めたのに!!!)

出合って3日で告白、半月で酔った勢いでキス、1ヶ月でお泊り・・・・

一体自分に今、何が起こっているのだろうか。先行き怖すぎる。

(何したんだろう僕・・・何があったんだろう?覚えてない!!)

スタンドの傍においてある眼鏡を探してかけると、改めてあたりを見回す。

今日着て出勤するスーツまで、かけてあった。

(泊まるつもりでここに来たのは明白だ。何しに泊まった?)

今の俊介の部屋を、従兄夫婦に返したら慎吾のところに間借りする事になり・・・・

(昨日、確かに先輩と僕は恋人になった・・・けど・・だからいきなりもう、一緒に寝ちゃってるの?)

何かありましたか?などと、訊くのも失礼な気がした。もし何かあったのなら・・・

(いや、先輩はすでに僕の酒癖を理解している。だから・・・)

何かあった場合、ショックなのは俊介だと言う事に気付く。

(僕って・・・初めてを何一つ覚えてない事になる)

「稲葉?そこで百面相するな・・・夕べは何も無いから」

バスローブ姿で入ってきた慎吾は、クローゼットを開けて着替え始める。

へえ・・・・

「シャワーして、着替えろ。出勤するぞ・・・」

「はい」

逃げるように部屋を出て、俊介はバスルームに入る。

(何も無かったんだ・・・)

 少しほっとする。

 

朝食の準備をしながら、慎吾は、バスルームの脱衣所に俊介の着替えを置いておく。

(あいつ、絶対裸じゃ出て来れないからな・・・)

こんな事にまで気を使う自分が、不思議でたまらない。

(俺、いつからオカンになったんだ?)

達彦は世話を焼かなくても、ぬかりない性格で、いつも準備万端、世話などする余地も無かった。」

(でもあいつ、抜けてて面白いなあ・・・)

「先輩・・・」

出勤モードになった俊介がダイニングにやってくる。

「すみません・・・あの、昨日・・・また、失敗したんでしょうか?僕?」

「失敗はしてないなあ・・・成功した」

え?

ははははは・・・・・・

からかうと面白い事に気付く。

「俺は、鬼頭優希じゃないから、腕枕で一晩も過ごせないと思ったけど・・・やれば出来るな。だから大成功。」

何の事かさっぱり判らない俊介は、曖昧な顔で席につく。

「と言うより、なんか疲れて寝ちまった・・・あ、昨日はお前もおとなしく寝たから。つーか、お前に襲われたら絶対

おとなしく寝れないから」

俊介にコーヒーを渡して、慎吾も席に着く。

「残念だったか?」

「いいえ、だって・・・また記憶無いなんて・・・人生悲惨です」

「俺も、一夜を共にした相手が、何の記憶もないと、ちょっとショックだな。やる時は酒は無しでだな・・・」

 「朝食も、僕が作りますから。引っ越したらですけど・・・」

目玉焼きを突きつつ、俊介が笑う。

「すぐ引っ越せ。今晩すぐ」

「そうですね〜部屋の管理だけ週一ですれば問題はないですが・・・」

家具はもとの主人の物、荷物もあまりない。運び出すのは一日で出来る・・・

「あ、親父には内緒だぞ?知れたら、左遷させられるかもしれないんだ」

何で・・・首をかしげながら俊介は食器を流し台まで運ぶ。

「俺の素行はバレバレなんだ、間借りとか同居なんて言っても信じない。」

慎吾の持ってきた食器を受け取り、俊介は洗い始める。

「そんな・・・尋ねてこられたら判っちゃうじゃないですか」

「俺のところには尋ねてこないけど、お前ン所は・・」

「僕が警察官になってからは、外で会ってますが・・・しかも人目につかないところが多いですけど」

手を布巾で拭きながら洗い物を終えると、俊介はコートを着る。

いつかは話さないといけない事・・・

「覚悟はしておきましょうね。大丈夫ですよ、僕が誘惑したって、ちゃんと説明します」

そんな潔さを持った後輩・・・俊介が愛しい

「もういいけど・・・左遷されても。お前以外はもうどうでもいい」

二人部屋を出て、駐車場に向かう。

「親父にとって、お前の親父さんは道標だったそうだ。俺にとってもお前はやはり道標なんだ」

外に出ると、春の日差しが眩しい。

「信じるか?達彦よりずっとお前が大事だって」

駐車場にある、車のドアを開けて慎吾はそう言って笑う。

「さあ・・自信は無いですけど、一旦、信じます」

二人乗り込んで、静かに走り出す車の中で、俊介は慎吾を見つめる。

「先輩の言葉は、無条件に信じますよ」

「いい子だ。俺は今まで、あんまり信用の無い奴だったけど、お前には本心だから」

 しかし・・・困った・・・

同業者をパートナーにするのは避けてきた。ばかりか、弁護士、検事・・・顔を合わせそうな人物は避けた。

得意の誘導尋問と、観察力で二度と顔を合わせない相手を選んできた。

だから、犯罪者になる可能性のある者、被害者になる可能性のある者も避けた。

しかし、危ない橋だった・・・

挙句に、たどり着いたのは・・・同僚とは・・あまりに近すぎる。

「稲葉・・・バレないように気をつけろ・・・」

署の駐車場で車を降りた慎吾がそうささやく。

「はい、でもそれじゃ・・・先輩の部屋に引っ越すのは、まずいんじゃあ・・・」

「いや、これは夜一緒にいても怪しまれない口実になるから・・・」

ああ・・・・

「勘違いするな。恥じてるわけでも、後ろめたいわけでもない。ただ、お前の立場を考えたら、バレないほうがいいと思うからだ」

並んで歩きながら、慎吾は俊介の肩に腕をかける。

「僕も、先輩の足、引っ張りたくありませんから」

 ただ、陰で支えていられればそれでいい。

そっと吹いてくる春風、自然にほどける肩にかかった腕・・・・

総てが愛しいと思えた。

 

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