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 年の暮れは何気なく過ぎてゆく・・・・

秋ごろ赴任して、あっという間に年末年始・・・3ヶ月間色々あった。

初日から・・・・

今年も、事件の無い正月を迎えられた事が何よりめでたい。慎吾は実家で父と親子水入らずの正月を送っている。

「にしても・・・俊介も来ればいいのに。ウチにわざわざ御節作って、故郷に帰るなんてなあ・・・」

大晦日、俊介は慎吾に重箱を手渡して、故郷に帰って行った。

自分のところの御節を作るついでだと言っていた。

「洋子さんも、甘えてくれてもいいのに、甘えないと、寂しがっていた」

ー正月くらい、おふくろさんの手料理食ったらいいのに・・・−

キッチンで忙しい俊介に、慎吾はそう言った。

ー母は僕を養うために苦労したんだから、今は僕が楽をさせてあげたいんですー

仕送りも欠かさない。事あるごとに何か宅配で送っている。そんな俊介が痛々しい。

(おふくろさんは甘えて欲しいんだろうなあ・・・)

甘えたくても母のいない慎吾は、甘えられない子供になった。

俊介は・・・・父を亡くしたとき、息子という位置から家長という位置に移動したのだろう。

男だったから・・・息子だったから・・・

「いい子なんだけど、切なくなる時があるんだ」

だから父は俊介を甘やかそうとするのだろう。甘えないから、甘えさせたいのだろう。

「俺だって、甘えられない息子なんだけど?」

「お前は八神家で甘えてたろうが・・・・」

八神達也・・・達彦の兄が兄代わりだった。

「そうか・・・・」

「お前、ちゃんと見張れよ。俊ちゃんに何かする奴がいたら左遷させてやる・・・」

ーただの知り合いだからと言う理由で、ひいきするような人じゃないぜ?俺の親父は・・・ー

あの時、俊介にはああ言ったが、だんだん自信がなくなってくる・・・・

「なあ、親父、稲葉の親父さんとは、どういう仲なんだ?」

ジャーからよそったご飯を父に渡し、自分の茶碗を持ってダイニングの席に着くと、慎吾はそう訊いた。

「あいつは俺の道標だった」

進は箸を取る

「あいつがいたからここまでこれたんだ。今も、昔も・・・」

慎吾も箸を取り、だしまきをつまみつつ複雑な気になる。

「恋愛関係とか言うなよ?」

「馬鹿、お前じゃあるまいし・・・」

え・・・

「お前の素行はお見通しだ、少し慎めよ。そう言うところからボロが出て、身を滅ぼすんだ」

・・・・・何もいえない三浦慎吾警視・・・・

「言っておくが、俊ちゃんには手を出すなよ。そんなことしたらお前でも左遷してやる」

半泣きの慎吾。

(俺、稲葉に襲われたんだぞ?告られたんだぞ?俺のせいじゃないぞ)

「で、稲葉の親父さんの話・・・」

「ああ、幼稚園の頃からいじめられてた俺をずっと庇って来てくれたのが俊一だったんだ。」

(いじめられてたの?親父・・・今、色んな人いじめてるくせに・・・・)

「慎吾、その目は辞めろ。悩んだときは答えをくれた、一緒に警察官になろうと努力して二人で頑張ってきたのに・・・」

「そのとき、親父、捨てられたと思った?」

「ああ、しかし、そのおかげで俺は良くも悪くも独り立ちを余儀なくされた。が・・・あいつは・・あんな死に方を・・・・」

それでも、そんな生き方を選んだのだ、彼は満足だったのだろう。息子にもその思いは受け継がれている。

「とにかく、お前の隣に俊ちゃんが住んでいるのは気に入らないから、早く引っ越させる」

何で・・・・・

「お前、達彦君にもふられたんだろう?」

(何でそんな事を・・というか、俺が達彦を好きだったって、何で知っているんだろう・・・・)

「俺はお前の親だから、見ればわかる」

「いつから、読心術できるようになったんだ?」

この前から、ずっと思考を読み続けられている慎吾は首をかしげる。

「職業病かな・・・」

ああ・・・・呆れて何も言えない。

「とにかく、ちょっと俊ちゃんに懐かれているからといい気になって、襲ったりするな。お前は俊一に似てるから

好かれているだけなんだ」

「似てるのか?俺・・」

「デカイ身体と、人懐っこい顔はな。中身は全然違う。」

確かに・・逢ってすぐ懐かれた・・・

そうか・・・・親父さんに似てたのか・・・

寂しいような、嬉しいような複雑な気分だった。

 

 

「あけましておめでとうございます。お土産持って来ましたよ」

3日の夜には俊介が慎吾の部屋に現れた。

「お漬物とか好きでしょ・・・ウチのおばさんが漬けたおいしいのがあるんですよ」

と人んちの冷蔵庫を開けて、収納している。

何日か振りに逢えて、かなり嬉しかったりする。

「俺、親父さんに似てるか?」

コーヒーを入れつつ、なんとも無い振りをしながら慎吾はそう訊く。

「ああ・・・似てるかも〜そうか、父さんに似てたんだ」

「俺が親父さんに似てるから、好きなんじゃないのか?」

ははははは・・・・・・

俊介に笑われた慎吾は、言葉を失くす。

 「というより、憧れかも。第一印象カッコいいなあ〜でしたけど」

それはよく言われる事だ。

「コーヒー入ったぞ」

呼ばれて俊介はダイニングの椅子に腰掛ける。

「なんか、先輩に早く逢いたくて、早く帰ってきちゃった・・・ここにいると安心します」

そういえば・・・慎吾もそうだった。

いつも共に行動しているからか、俊介がいないと落ち着かなかった。

5月ごろには、徐々に署長の引継ぎで、俊介との現場活動の時間も少なくなる・・・

それより、人事移動・・・

達彦との時のように、俊介の昇進で、職場が別になる可能性もある。

出逢うのではなかった・・・・・どうせ叶わないなら。

「先輩?また何か考え込んでる・・・」

コーヒーカップを両手で包んで、俊介は慎吾を覗き込む

誰かに逢えなくて寂しい思いなど、したことが無かった。達彦と職場が別になったとき以外は。

「ああ・・・マジどうしょう」

「先輩・・・」

「俺が署長になったら、稲葉と離れ離れだ・・・」

ああ・・・俊介はやっと慎吾の葛藤を理解する。

「同じ署にいるんだから、大丈夫ですよ〜」

「それだけじゃない。稲葉が昇進したら?配属が変るぞ」

「仕方ないですよ。寂しいけど・・・近くに住んで通おうかな・・・でも、先輩、僕と離れ離れ、そんなに辛いですか?」

嬉しそうな俊介に少しむっとした。

「僕の事なんか何とも思ってないと思ってたから・・・」

「今まで、こんな事で悩んだ事、無かったんだ」

「光栄です、離れていても、僕は先輩の事、好きですから。ずっと。」

やはり、守りたい。誰にも渡したくない。失くすまいと保守的になる自分がいる。

失くす事が怖い・・・

だんだん弱くなってゆく自分を感じて、慎吾は戸惑っていた。

 

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